エラベノベル堂

ラストワン

18+ NSFW

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1章 / 全10

引っ越し作業を終えたばかりのシェアハウスの一室。段ボールの山が積み上がる中、春菜は腕を組んで部屋の中央に引かれたマスキングテープの線を見下ろした。 「これが境界線ね。絶対に越えないでよ」 健人がベッドの端に腰掛け、やれやれといった風情で髪をかき上げる。 「わかってるよ。俺だってお前のテリトリーになんか入りたくないし」 「何その言い方。私だって、あなたの生活音とか聞きたくないんだから」 「へえ、じゃあ耳栓でも買っとけば?」 春菜が鋭い視線を投げる。この男と同じ部屋で暮らさなければならない現実が、まだ信じられなかった。家賃の安さに惹かれてシェアハウスに申し込んだのはいいが、まさか異性とルームシェアすることになるとは。 「ルールを確認するわよ。第一、境界線を越えない。第二、相手の物に触れない。第三、生活音は最小限にする」 「はいはい、わかった」 「返事は『はい』だけでいい。はいはいって何? 馬鹿にしてる?」 「してねーよ。素直に聞いてんだろ」 健人が立ち上がり、自分のスペースに段ボールを運び始める。春菜も負けじと自分の荷物を整理し始めたが、ふと気づく。クローゼットの位置が、どう見ても境界線ギリギリだ。 「ちょっと、そのクローゼット。明らかにこっちにはみ出してるんだけど」 「は? 俺のエリア内だろ」 「見てよ、このテープのライン。扉を開けたら間違いなく越えるわ」 「開けなきゃいいだろ」 「開けないわけないでしょ! 毎日着替えるんだから!」 健人がため息をつく。春菜の苛立ちが募る。 「じゃあどうすりゃいいんだよ。クローゼット壊せって?」 「壊さなくていい。あなたが少し譲歩すればいいの」 「お前こそ、その本棚どうなんだよ。俺のデスクに影響するだろ」 春菜が本棚を見る。確かに、窓からの光を少し遮っているかもしれない。でも認めたくない。 「……それは、また後で考えればいいでしょ」 「都合いいな」 「何か言った?」 「何も」 窓から差し込む午後の日差しが、マスキングテープの境界線を照らす。線の両側で、二人は互いを睨み合ったまま動かない。この薄い線が、どれほど脆いものか、二人はまだ知らない。

1章 / 全10

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