エラベノベル堂

透明な境界線

全年齢

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2章 / 全10

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「……で、まだ続けるのか、その話」 涼は校庭の脇にあるベンチへ腰を下ろしながら言った。夕方の風は少し冷たく、運動部の掛け声だけが遠くで弾んでいる。隣に座った美咲は、膝の上で指を組んだまま、涼の横顔を見上げた。 「続けるよ。信じてないなら、なおさら」 「信じてないとは言ってない。保留だ」 「保留って便利だよね。逃げ道があるから」 「悪いか」 「悪くない。涼らしい」 からかう声は軽いのに、視線だけは外れない。涼は落ち着かない気分のまま、靴先で小石を蹴った。ベンチの木目はざらついていて、手を置けば少し刺さる。そう思った次の瞬間、美咲の袖口がわずかに揺れた。 「……見た?」 「何を」 「今の、触れたでしょ」 涼は自分でも気づかないうちに、隣にある美咲の手に軽く触れていたらしい。ほんの一瞬の接触だったのに、胸の奥に妙な波紋が広がる。言葉にされていないはずの感情が、輪郭の曖昧な影になって浮かび上がる。 誰にも悟られたくない。けれど、本当は見てほしい。 そんな、相反する熱がある気がした。 涼は思わず手を引っ込めた。 「……何か、変な感じがした」 「変な感じ?」 「お前の言葉だけじゃ、説明しきれないというか」 美咲は少しだけ目を細めた。驚いたふうでも、責めるふうでもない。ただ、涼の動揺を静かに測っている。 「そう。じゃあ、少しは近いほうがいいのかも」 「近い?」 「近いほど見えやすい。たぶん、そういうもの」 たぶん、という曖昧さがかえって現実味を帯びて耳に残る。涼は、今の自分が何を考えているのか、どこまで顔に出しているのかが急に気になった。もし本当に見えるのだとしたら、胸の奥にあるこのざわつきまで、全部知られているのかもしれない。 「見えやすいって、何が」 「心。言葉にしないほうの」 「都合がいいな」 「うん。だから、隠してるつもりでも結構わかる」 「それは、脅しか」 「観察」 さらりと言い切られて、涼は返す言葉を失った。けれど妙だった。警戒しているはずなのに、目の前の美咲から目が離せない。夕暮れに染まる横顔がやけに鮮明で、さっき触れた指先の感触だけが、まだ残っている気がした。 「涼」 「なんだ」 「今、すごく考えてる」 「当たり前だろ」 「ううん。考えてる内容が、ちょっと違う」 その一言で、涼の背中に小さな緊張が走る。見透かされる不安と、なぜか視線を逸らしたくない感覚が、同時に胸の中でぶつかり合っていた。美咲はそれを知ってか知らずか、静かに笑う。 「ほらね。近いほど、わかりやすい」 涼は唇を結んだまま、美咲の顔を見返した。何を見られているのか怖いのに、その怖さより先に、どうしようもなく気になってしまう。自分でも理由のわからないその感覚が、夕方の薄い光の中で、じわじわ形を持ちはじめていた。

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