エラベノベル堂

涙が溶ける場所

18+ NSFW

小説ID: cmpr5hrbp004201pqxedacsk0

1章 / 全10

重厚な扉が軋みを上げて閉ざされた瞬間、エリナは皮肉っぽく唇を歪めた。 「これが私の牢獄というわけね」 アランは背を向けたまま、短く答える。 「そう言うな。俺も同じだ」 広い寝室には、天蓋付きの寝台が鎮座し、蝋燭の炎が揺らめいている。婚礼の儀式は形式的なものだった。魔族と人間、百年続いた戦争を終わらせるための政略結婚。エリナは魔族の王女として、アランは人間の王子として、互いに一言も言葉を交わさずに指輪を交換した。 「期待などしていなかったけれど」 エリナが冷ややかに言う。 「ここまで殺気立った新婚初夜も珍しいわ」 アランが振り返る。蒼い瞳には深い疲労と、隠しきれない敵意。 「俺達の民がどれだけ犠牲になったか、忘れるな」 「知っているわ。私の種族も同じだった」 沈黙が降りる。その時、扉の外から古老の祝福の詠唱が聞こえてきた。伝統的な儀礼の言葉のはずだった。だが、音節が歪んで聞こえる。 「……何これ?」 エリナが眉をひそめる。古老の声が高揚し、部屋の空気が振動し始めた。アランが警戒して身構える。 「まさか、暗殺か?」 「違う、これは……」 奇妙な波動が部屋全体を包み込む。窓ガラスが微かに鳴り、空気が重く粘度を増していく。エリナが手を伸ばして確かめようとした瞬間、見えない壁に阻まれた。 「結界?」 「外に出られないのか」 アランが扉へ向かうが、同じように見えない障壁に阻まれる。二人は顔を見合わせた。敵意と警戒が入り混じった視線が絡み合う。 「あの古老、何をしたの」 「分からない。だが、何かが始まっている」 エリナの胸の内で、抑えきれない怒りが燃え上がり始めていた。

1章 / 全10

TOPへ