蛍光灯の白い光が、広いアトリエの床に冷たく落ちていた。壁際に並ぶラックも、張り詰めたマネキンも、終わらない作業の気配を吸い込んで黙っている。時計の針は夜の八時を少し回ったところで、残っているのは遥香と健太だけだった。 「……まだ終わってないの、こっちも?」 遥香はドレスの裾をつまみ、眉をひそめた。 「そっちこそ。縫い目、二ミリずれてる」 健太はスーツの肩を見たまま返す。言い方は淡々としていたが、視線だけは容赦がない。 二年前から、ずっとこうだ。入社した頃はただの同期だったのに、いつの間にか昇格を争う相手になった。相手の作品を認めれば認めるほど、負けたくない気持ちが強くなる。誰より先に完成させたい。誰より正確に仕上げたい。そんな意地が、今夜は特に濃かった。 遥香は針を持ち直し、息を殺して糸を通す。指先は疲れていたが、止めるわけにはいかなかった。大型ショーの最終納期は明日だ。あと少しで、ここまで積み上げてきたものが形になる。 「健太、そこ押さえて」 「命令口調、相変わらずだな」 「今は感想より手」 「はいはい」 健太が布端を引き、遥香が縫い込む。肩が触れそうな距離なのに、二人の間には見えない線が一本張られていた。近いのに、簡単には越えられない線だ。 「そのまま動かないで。シルエットが崩れる」 「そっちこそ、焦って引っ張るな。ラインが死ぬ」 「死なない。私が生かす」 「強気だな」 言い合いながらも、手は止まらない。遥香は健太の癖を知っている。余計な力を入れると、仕上がりに微かな硬さが出る。健太も遥香の癖を知っている。速さを求めるほど、最後に自分を追い詰めることを。 だからこそ、互いの手元が気になる。相手の視線が少しでもずれれば、すぐ分かってしまう。敵であり、同時に、認めたくないほどよく似た相手だった。 遥香は唇を結び、完成間際のドレスを見下ろした。あと一息。ほんの少しの妥協もしたくない。 「健太」 呼ぶと、彼は短く目だけを向けた。 「なに」 「……最後まで、先に終わらせるから」 健太は一拍置いて、口の端をわずかに上げる。 「言ったな。こっちも同じだ」 その返事に、遥香の胸の奥がじり、と熱を持った。静かな火花は、まだ消えない。むしろ、真っ暗なアトリエの中でいっそう鮮明になっていく。二人とも譲る気などないまま、夜の続きへと手を伸ばした。
ライバルは今夜、隣に座る
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