エラベノベル堂

ライバルは今夜、隣に座る

全年齢

小説ID: cmpr5o0qu0gct01l7y5j4rr50

10章 / 全10

ライバルは今夜、隣に座る の小説画像

控室のドアが閉まると、外の喧騒だけが薄い膜みたいに遠のいた。鏡の前には、仕上がった衣装を身に着けた遥香と健太が並んでいる。さっきまで針と糸で戦っていた指先は、今はもう震えていない。 「……似合うじゃん」 遥香が先に口を開く。見上げるように健太を見るその顔には、いつもの刺々しさがない。 「そっちこそ。最後まで、崩さなかったな」 「当たり前でしょ」 言い返したのに、遥香はふっと笑った。鏡に映る二人の表情は、ライバルというより、同じ地点まで走り切った仲間に近い。 健太も小さく息を吐く。 「張り合うの、ここまでかもしれないな」 「急に弱気?」 「違う。信じてるだけ」 その一言に、遥香の目がわずかに揺れた。けれどすぐに、彼女は顎を上げる。 「なら、見てなよ。私たちの答え」 ランウェイへ続く扉が開き、スタッフの声が流れ込む。二人は無言で視線を交わし、同時に一歩を踏み出した。 ショーが始まると、会場の空気は一瞬で変わった。灯りの下を歩くコレクションは、遥香の鋭い輪郭と健太の繊細な構築が重なり合い、ひとつの流れになって観客の視線を奪っていく。衣擦れの音すら、拍手を待つ前奏みたいだった。 やがて最後の一着が止まり、静寂のあとに割れんばかりの喝采が起こる。遥香は舞台袖で息をのみ、健太は思わず肩の力を抜いた。 「……やったな」 「うん。やった」 そのあとに告げられた評価は、二人にとって予想外だった。昇格候補として、片方ではなく二人そろって名前が挙がる。遥香は目を丸くし、健太も珍しく言葉を失う。 「共同、ってこと?」 「そういうことみたいだな」 笑うしかなくて、遥香は小さく吹き出した。悔しさより先に、胸の奥が熱くなる。 その瞬間、健太の視界に映る遥香の色が、青でも灰色でもなかった。穏やかな赤が、やわらかな金色を抱いて、静かにきらめいている。 「……変わったな」 健太がそうつぶやくと、遥香はきょとんとして、それから少しだけ頬を染めた。 「何が」 「色」 「なにそれ、変なの」 そう言いながらも、彼女は笑っていた。あたたかな赤と金色は、もう争いの色じゃない。健太はその輝きを、はっきりと未来への合図だと受け止めた。

検閲済みプロット

大手ファッションブランドで新人デザイナーの遥香と健太は、同じ昇格候補として二年間ライバル関係にあった。大型ショーの準備で最終納期が迫る夜、二人だけが残って最終調整をすることになる。息抜きのワインで一応の緊張が解れた頃、初めて互いの本音が聞こえ始める。遥香の「一人じゃなかったら」という呟きに健太が反応した瞬間、視界が歪んで彼女の感情が色として見えるようになる。ライバル心は青く、孤独は灰色、そして自分への想いは赤く光る。距離を縮めるほど色が濃くなり、触れた瞬間に感覚も共有される。今までの嫉妬と憧れが一気に溢れる中、二人は互いのデザインが実は相手のことを見て描かれていたことに気づき、心の距離を縮めながら相手をさらに知ることとなる。

10章 / 全10

TOPへ