エラベノベル堂

共感覚クリニック

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3章 / 全10

夕陽が診察室の窓から斜めに差し込み、白い壁をオレンジ色に染めていた。陽菜は前回と同じ診察台に座り、待っていた。ドアが開き、宗介が入ってくる。あの無表情な顔には変わりない。 「調子はどうですか」 彼はいつもの平坦な声で尋ねた。 「少し、良くなった気がします。でも……」 陽菜は言葉を濁した。確かめたかったのは膝の具合ではない。あの奇妙な感覚だ。 「マッサージ、続けましょう」 宗介は何も聞かず、手際よく準備を始めた。冷たい指先が再び陽菜の膝に触れる。その瞬間、彼女は確信した。指先から何かが流れ込んでくる。言葉にできない感情の波。それは痛みに近く、でも物理的な痛みではない。 「先生、これ……」 陽菜は思わず宗介の腕に手を置いた。彼の手の甲に自分の指を這わせるようにして。すると、より鮮明になった。重苦しい圧迫感。誰かの、いや、この目の前の医師の内側にある何か。宗介がわずかに息を飲む気配がした。 「何か、感じるんですか」 彼の声は低かった。質問というより、確認に近い。 「先生の……責任感、なのかな。すごく重いのが伝わってきます」 陽菜が答えると、宗介の手が一瞬止まった。 「私の感情が、あなたに」 「はい。それに時々、鋭い痛みみたいなのも」 陽菜は宗介の目を見つめた。あの無機質な瞳の奥に、何かが揺らいでいる気がした。 「治さなきゃいけないっていう、その思い……こんなに強かったんですね」 宗介は答えなかった。ただ、静かにマッサージを再開した。でもその指先は、前回よりもわずかに長く、陽菜の肌に留まっていた。

3章 / 全10

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