エラベノベル堂

シェアドリーム

全年齢

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2章 / 全10

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まどかは、どこまでも広いのに、どこにも足場のない場所に立っていた。 床のようで床ではない。雲のようで雲でもない。踏みしめるたびに景色がふわりと揺れて、遠くの光が水面みたいに波打つ。けれど不思議と怖くはなかった。むしろ、胸の奥がひどく静かだった。 「また、ここに来たんだ」 声がして振り向くと、少し離れたところに男の人がいた。背の高さも、肩の力の抜け方も、どこか見覚えがある気がする。顔を見た瞬間、まどかは理由もなく息を呑んだ。 「え、誰……」 「それ、こっちの台詞」 男は困ったように笑った。その笑い方が妙に自然で、まどかは思わずつられて口元をゆるめる。 「でも、知らないはずなのに、変な感じ」 「俺も。初めて会った気がしない」 言い終えた途端、二人の間にあった空気が少しだけ近づいた。名乗る前なのに、言葉がすんなり通る。沈黙さえ気まずくない。 まどかは一歩、近づいた。足元がまた揺れる。だけど男は平然とそこに立っている。 「ねえ、あなたも急にここに来たの?」 「たぶん。気づいたらいた」 「変なの」 「そっちもな」 乾いた笑いが重なった。すると、不思議なことに、周囲の揺らぎまで少しやわらいだ気がした。 まどかは、ためらってから手を伸ばす。触れたら消えるかもしれない、そんな予感がしたのに、男も同じように手を差し出した。 指先が触れた瞬間、熱が走った。 それは夢の中とは思えないほどはっきりしていて、まどかは目を見開く。 「……あったかい」 男も驚いた顔をして、自分の手とまどかの手を交互に見た。 「ほんとだ。こんなにはっきりするもんなのか」 「夢なのにね」 「夢だから、なのかも」 どちらが言い出したわけでもなく、二人はそのまま笑っていた。さっきまでの警戒心が、手のひらの温度に溶かされていく。 「ねえ、名前は」 まどかが訊きかけたところで、足元がまた大きく揺れた。視界の端が淡く滲み、広い空間の向こうで光がゆっくり流れ始める。 男は繋いだ手に少しだけ力を込めた。 「今は、まだいいんじゃないか」 「どうして」 「なんとなく。次に会った時でも」 その言い方が妙に優しくて、まどかは胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。名前も知らないのに、もう少し一緒にいたいと思ってしまう。 「じゃあ、次もここに来てよ」 「来られたらな」 「来るでしょ」 「そんな気がする」 手のぬくもりだけが、景色の揺れの中でも消えない。まどかはそれを握り返した。男も、当然のように受け止める。 光がいよいよ強くなって、二人の輪郭をやわらかく包み込んだ。見えなくなる直前まで、まどかはその手を離さなかった。まるで最初から知っていた相手みたいに、離したくなかった。

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