エラベノベル堂

シェアドリーム

全年齢

小説ID: cmps5d0in0iub01l7ftc9noo5

3章 / 全10

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まどかは目を開けた瞬間、自分がまだ夢の余韻に沈んでいるのだと知った。薄いカーテンの隙間から朝の光が差し込み、白い壁にやわらかな帯をつくっている。けれど、胸の奥だけは妙に熱かった。さっきまで誰かの手がそこにあった気がして、指先を握っていたぬくもりまで鮮明に残っている。 「……まだ、覚えてる」 小さくつぶやくと、自分の声がひどく頼りなく聞こえた。夢の中で交わした言葉は、起きたそばからほどけていくはずなのに、今回は違った。知らない男の笑い方、少しだけ低い声、手を離さなかった感触。何度思い返しても、薄れていかない。 まどかは布団を押しのけて起き上がった。髪をまとめながらキッチンへ向かう足取りはいつも通りなのに、意識だけが落ち着かない。湯を沸かし、食パンをトースターに入れる。そんな単純な動作のあいだも、壁の向こう側がやけに気になった。 隣の部屋にいるのは、誰なんだろう。 今まではただの隣人だった。顔も見たことがないし、名前も知らない。なのに、夢の相手があまりに自然に浮かんでしまう。背の高さも、話すときの間も、笑ったときの雰囲気も、勝手に誰かの輪郭へ重なっていく。 「まさか、ね」 そう口にしてみても、否定しきれない。古いアパートの壁は薄い。生活の気配は、少し耳を澄ませば伝わってくる。昨夜あの空間で手を重ねた相手も、こんなふうに静かな朝を迎えているのかもしれない。そう考えただけで、胸の奥がくすぐったくなった。 トースターが軽く鳴って、まどかは我に返る。焼き色のついたパンを皿にのせ、バターを塗りながら、ふと笑ってしまった。 「変だな……見たこともないのに、知ってる気がする」 夢の相手の存在感は、食卓に座っても消えなかった。むしろ、朝食をとるたびに、壁の向こうの誰かが同じように息をしている気がしてならない。まどかはパンをかじりながら、何度も隣室へ意識を向けた。そこにいるのが誰であれ、昨夜のぬくもりを思い出してしまう。まだ顔も知らないその人を、彼女はもう完全には他人として扱えなくなっていた。

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