あの日から数日が過ぎた。まどかは毎晩、眠るのが少しだけ楽しみになっていた。白い霧の夢を見るかもしれない。あの男性にまた会えるかもしれない。根拠のない予感が胸の奥で膨らんでいる。講義が終わってアパートに戻り、簡単な食事を済ませると、まどかは早々にベッドへ潜り込んだ。隣室からは今日も生活音が聞こえてくる。けれど以前ほど気にならなくなっていた。まどかは目を閉じ、深呼吸を繰り返す。意識が沈んでいく感覚。そして再び、あの白い空間が広がっていた。 「来てくれたんだ」 声がして、まどかは顔を上げた。霧の向こうから彼が歩いてくる。数日前と同じ、落ち着いた雰囲気の男性だ。 「また会えたね」 まどかが言うと、彼は少し嬉しそうに目を細めた。 「ああ。来てくれると思ってた」 根拠なんてない。けれど、そう感じられたことが嬉しかった。二人は並んで歩き出す。白い空間には出口も入り口もない。ただ、どこまでも続く白い道があるだけだ。 「君は学生さん?」 彼が聞いた。 「うん、大学二年。文学部」 「文学部か。似合いそうだね」 「それってどういう意味?」 まどかは少し拗ねたような顔をして見せた。 「いい意味だよ。静かな感じがするから」 彼は笑った。その笑顔を見て、まどかもつられて笑ってしまう。 「あなたは? 社会人?」 「お察しの通り。普通の会社員だよ」 彼は肩をすくめた。 「毎日残業で疲れてるけど、ここに来ると不思議とリラックスできる」 「私も」 まどかは頷いた。 「最近、眠るのが楽しみなんだ」 言ってから、少し恥ずかしくなった。そんなことを言うなんて。けれど彼は嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうな表情を浮かべた。 「俺もだよ」 二人は視線を合わせて、少し照れくさそうに笑い合った。名前を教え合うことになったのは、その少し後だった。 「そういえば、名前聞いてなかったね」 まどかが言うと、彼は 「あ」 と小さく声を上げた。 「確かに。俺は健人。健人って呼んで」 「健人くん。私はまどか」 「まどかちゃんか。いい名前だね」 「ありがとう、健人くん」 名前を呼び合うと、距離がぐっと縮まったような気がした。まるで昔からの知り合いのような、不思議な親近感。 「ねえ、健人くんはどこに住んでるの?」 まどかが聞くと、健人は少し考えてから答えた。 「都内のアパート。築年数が古いけど、家賃が安いから気に入ってるよ」 「私もアパート。壁が薄くて隣の人の生活音が聞こえてくるんだ」 「俺のところもそうだ。隣には誰が住んでるのか分からないけど」 二人は顔を見合わせて笑った。まどかは夢の中の相手が現実の隣人だとは気づいていない。健人も同じだった。ただ、心地よい会話と笑顔だけが、白い空間に満ちていた。
シェアドリーム
18+ NSFW小説ID: cmps5di54005501pq3zzcvdj7

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