初夏の風が頬を撫でる。京都の街並みは、東京とは違う時間の流れを感じさせた。 「結ちゃん、こっち!」 振り返ると、幼馴染の陸が店先から手を振っている。 「陸くん、久しぶり」 結は小走りに駆け寄った。祖母が遺した和紙問屋『紙遊』の軒下で、陸は眩しそうに笑う。 「東京、どうだった?」 「悪くはなかったけど……やっぱりここが落ち着く」 結は看板を見上げた。子供の頃から変わらない、味わいのある木組み。 「おばあちゃん、最後までこの店を守りたかったんだよね」 「うん。だから俺たちで継ごう」 陸の言葉に、結は目を瞬かせた。 「俺たちで?」 「一人じゃ大変だけど、二人ならできるだろ? 結ちゃんも、戻ってくるつもりだったんじゃない?」 図星だった。東京での就職も考えていた。でも、祖母の訃報を聞いた瞬間、迷いは消えた。 「……うん。私が継ぐって、決めてた」 陸は安心したように頷く。 「じゃあ、決まりだな。これからよろしく、共同経営者さん」 差し出された手を、結は固く握り返した。 「よろしく、陸くん」 店の中は静かに時が止まっていた。祖母の香りがまだ残る。 「埃払いから始めなきゃね」 「俺、蔵の方も見てくるわ」 「手伝ってくれるの?」 「当たり前だろ。もう片腕だからな」 頼もしい背中を見送りながら、結は胸の奥が温かくなるのを感じた。新しい生活が、ここから始まる。
記憶を染める和紙
18+ NSFW小説ID: cmpujb8kt005v01pqhmnmqog3










