エラベノベル堂

記憶を染める和紙

18+ NSFW

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2章 / 全10

朝露がまだ残る石畳を踏みながら、結は蔵の引き戸を開けた。昨日の埃払いで少し綺麗になった店内とは対照的に、蔵の中は古い紙の匂いが濃く漂っている。 「おはよう、陸くん」 薄暗い中、陸が木箱の前にしゃがみ込んでいた。 「おはよ。これ見てくれ」 彼が指差した箱の中には、布に包まれた古びた和紙が収められていた。 「これが代々伝わる家宝の手漉き和紙だ」 陸は慎重に布を解き、淡いクリーム色の紙を取り出す。 「すごい……肌触りが違うね」 結が指先で触れると、表面に微かな凹凸を感じた。 「おばあちゃんから聞いた話なんだけど、この和紙には不思議な性質があるらしい」 「不思議な性質?」 「墨が触れた瞬間、誰かの記憶が滲み出るんだって」 結は首を傾げた。 「記憶が、滲み出る?」 「正直、信じてなかったんだけど……試してみるか?」 陸は箱の底から折り畳まれた古い手紙を取り出した。 「これ、百年前の恋文らしい。おじいちゃんが見つけたって言ってた」 二人は顔を見合わせ、和紙の上に手紙を広げた。筆で綴られた文字は、歳月を経てもなお鮮明だった。 「『愛しき人へ。逢えぬ日々が募るばかり……』」 結が文面を読み上げた瞬間、視界が白く染まった。 --- 雨音が聞こえる。蝋燭の揺れる明かり。着物の袖を握りしめる細い指。愛しさと切なさが胸を満たす。逢いたい。逢いたいのに、逢えない。涙が頬を伝う感覚。 --- 「っ……」 結が息を呑んで目を見開いた。 「結ちゃん、大丈夫!?」 陸が肩を支える。 「見た……雨の夜、誰かを想って泣いてる人の記憶を……」 結は胸を押さえた。心臓が早鐘を打っている。 「切なかった。すごく、切なかった」 陸は驚いたように手紙を見つめた。 「本当だったんだな、おばあちゃんの話」 結は震える指先で和紙に触れた。仄かな温もりが残っている。 「この和紙、人の想いをそのまま残しているんだね」 沈黙が流れる。二人は言葉を探しあったが、適切な言葉は見つからなかった。百年前の切なさが、今の二人の間に静かに息づいている。

2章 / 全10

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