広場へ足を踏み入れた瞬間、真斗は思わず立ち止まった。朝の光の下で、村人たちの視線が一斉に集まる。逃げたい。顔から火が出る、とはこういうことを言うのだろう。しかも中央では、あの魔法鏡の商人が困ったように頭を下げ、女将は扇子を口元に当てて肩を震わせていた。 「ほら、勇者さま、前へどうぞ」 陸玖が悪びれずに背を押す。真斗は振り返った。 「どうぞ、じゃありません。なんですかこの状況は」 「状況説明なら俺がする」 湊大が真っ先に一歩出る。真斗の前に立つその背は、奇妙なくらいまっすぐだった。 「昨夜の件は、たしかに面白おかしく語れるかもしれない。だが、真斗さんは軽く笑われていい人じゃない」 広場が少し静かになる。真斗は息を呑んだ。 湊大は続ける。 「この人は、村を守るために何度も前に出た。怖くても、体調が悪くても、剣を握って逃げなかった。そういう人を、今日だけの珍事件で見るのは違う」 陸玖が顎に手を当て、珍しく真面目な顔をした。 「茶化すのは簡単だけどさ。真斗さん、ほんとにずっと頑張ってたよ。弱ってたときだって、誰かに甘えるのが下手なだけで、ずっと自分で立とうとしてた」 章仁は短く息を吐くと、真斗の横に並ぶ。 「だから、変な目で見るな。見てもいいが、笑いものにするな」 その言い方は相変わらず不器用で、なのに胸の奥へ真っ直ぐ刺さった。 真斗は視線を落とし、握りしめた拳を開く。恥ずかしい。消えたい。だが、その感情の底に、温かいものが確かにある。 守られるだけで終わる必要はないのかもしれない。 誰かに選ばれるのを待つだけでなく、自分も誰かを選び返していい。 その考えが、胸の奥で静かに形になった。 真斗はゆっくり顔を上げた。 「……私は、まだ、こういう場は苦手です。でも」 三人が、黙って待つ。 「あなたたちとなら、次へ進んでもいいと思っています」 広場がどよめいた。村人の誰かが拍手を始めると、それは一気に波になった。照れ隠しの笑い、安心したような歓声、誰かの大げさな口笛。女将は扇子を高く掲げて、ついに遠慮なく高笑いした。 「まあまあ、めでたいことじゃありませんか。旅立ちの前に、こんなに景気がいいなんて!」 「女将さん、結局楽しんでましたね」 陸玖が苦笑する。湊大は少しだけ息をつき、章仁は耳まで赤いまま真斗の顔を見なかった。 真斗は三人を見た。からかわれているわけじゃない。試されてもいない。ただ、隣にいることを当然のように受け止められている。 「……逃げませんから」 ぽつりとこぼすと、陸玖が目を丸くし、次の瞬間には笑った。 「それ、すごい宣言だね」 「今さらです」 「今さらでも十分だ」 湊大の声はやわらかかった。 真斗は深く息を吸う。恥ずかしさはまだ消えない。けれど、その奥にある高鳴りはもう怖くなかった。広場の喝采の中で、彼女は三人と並んで立ち、次の旅へ進むことを受け入れた。女将の笑い声が青い空に跳ね、村はいつまでも賑やかに揺れていた。
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東京から異世界に召喚された真面目一筋の女勇者が、辺境の宿で飲んだ女将の「特別ドリンク」により理性を乱される。彼女に想いを寄せていた三人の冒険者が次々と近寄り、揺れる気持ちを支えながら距離を縮めていく。温泉旅館の大浴場で想いが交錯し、騒動の様子が魔法鏡で偶然記録されて翌朝村の広場で話題になる。朝目覚めた彼女は昨夜の出来事が夢ではなかったと知り、自分の本音と向き合う。コメディテイストの物語として再構成する。
