眠りたいのに、目が冴えていた。 真斗は布団の中で天井を見上げ、昨夜の縁側を何度もなぞっていた。月明かり、三人の声、逃げないと言われたときの胸の痛み。思い返すたび、心臓が妙にうるさくなる。あの騒がしい夜のせいだと片づけるには、熱が残りすぎていた。 「……なんで、こんなに落ち着かないんですか」 小さくつぶやいてから、真斗は枕元に手を伸ばした。そこに、見慣れない小袋が置かれている。結んだ紐は陸玖の軽い癖が出ていて、布の端は湊大らしく整っている。中には、乾いた香草と小さな木札が入っていた。さらに、その下に折りたたんだ布が一枚。章仁の持ってきた外套の端布だと、触れただけで分かった。 真斗は息を止めた。 「……これ、わざとですか」 誰も答えない。けれど、答えはもう目の前にあった。寒さをしのげる香草、気持ちを落ち着ける匂い、眠れない夜に握っていられるもの。仲間だから、では少し足りない。気遣いはどれも違うのに、全部が真斗のために揃えられている。 「こんなもの、ただの善意で置きますか」 口に出した瞬間、胸の奥で何かがほどけた。 昨夜、自分は嫌がっていたわけじゃない。拒みきれなかったのでもない。あの手を離したくなかった。自分でも認めたくないほど、安心していたのだ。 真斗は小袋を握りしめ、熱くなった頬を布団に押しつける。 「……仲間、だけでは、ない」 その言葉は、やけに静かに落ちた。剣を振るときよりずっと弱い声だったのに、妙に重かった。 廊下の向こうで、誰かの足音がした。続けて、低いざわめきが宿全体に広がっていく。ひとつ、ふたつではない。村人たちの声だ。真斗は布団から身を起こし、耳を澄ませた。 「おい、あれだろ。昨夜の鏡のやつ」 「広場で見られるってさ」 「勇者さま、あれはさすがに……」 真斗の顔から、さっと血の気が引く。 「……広まってる?」 何が、とは言わなくても分かった。思い出したくない映像が、もう人の口に乗っている。胸の奥が冷たくなり、次の瞬間には耳まで熱くなった。 「待ってください、なんでそんなに早いんですか」 思わず声が裏返る。外はまだ朝に切り替わる直前の薄い気配で、宿の板壁越しにざわざわとした気配だけが流れ込んでくる。 真斗は小袋を握ったまま、しばらく動けなかった。恥ずかしさと、昨夜のぬくもりと、言い逃れできない理解が、ひとつの塊になって胸を圧迫する。 そして、その先に待っている広場のことを思い浮かべて、真斗は小さく息を吸った。
異世界ドリンク
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