夕方の光は、街の小さなイベント会場の窓際にやわらかく差し込んでいた。澪は入口近くのテーブルに並んだ紙コップを見て、思わず息をのむ。見慣れた顔もあれば、初めて会う読者の姿もある。自分のサイトのことを知って、口コミで少しずつ広がった結果が、こんな形で目の前に集まっているのだと思うと、胸の奥がくすぐったかった。 「ほんとに、来てくれたんだ……」 「そりゃ来るだろ。読めば分かる場所になってたし」 隣で湊大が肩をすくめる。澪は苦笑して、手元の名札を指で押さえた。 「最初は、全然見つけてもらえなくて焦ってたのにね」 「その焦りがあったから、整えるところまで来たんだろ」 「うん。でも、まさか交流会まで開かれるなんて思わなかった」 誰かが作品の感想を口にすると、別の誰かがうなずく。紹介文が分かりやすかったこと、作品の並びで次に読むものへ自然に進めたこと、更新が続いていて安心できたこと。どれも派手ではない。けれど、その一つ一つが会話の中で光っていた。 澪は、テーブルの上に置かれた自作の案内カードを見つめる。最初はただ、少しでも目立ちたくて仕方がなかった。けれど今なら分かる。目立つことより、迷わず辿り着けること。大きな声より、読んだ人が人にすすめたくなること。それがいちばん強い宣伝だった。 「地道にやってきて、よかったんだね」 ぽつりとこぼすと、湊大が小さく笑った。 「今さら気づいたのか」 「だって、もっと早く派手な方法を探しちゃいそうだったから」 「で、結局は正解だった」 澪はうなずく。会場のあちこちで感想が飛び交い、笑い声が重なる。その音は騒がしいのに、不思議と心地よかった。自分ひとりの机の前で積み上げた工夫が、こんなふうに誰かの会話になって返ってくる。静かな達成感が、じんわりと広がる。 「結局、最初の焦りがきっかけだったんだよね」 澪は少し照れたように笑った。 「そこから、ちゃんと積み上げられた」 湊大の言葉に、澪はもう一度会場を見回す。初めて作品の読者交流会が開かれたこの夕方、派手な演出は何もない。それでも、ここにある熱は本物だった。地道な工夫は、確かに誰かを連れてきてくれる。 澪は胸の前でそっと手を握り、静かに息を吐いた。焦りから始まった道が、いつの間にか人の輪へつながっている。その事実だけで、今日は十分だった。
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