エラベノベル堂

積み上げる読者

全年齢

小説ID: cmpzswg8l03pn01nukiwridk2

9章 / 全10

澪は画面の明かりを見つめたまま、しばらく指を止めていた。さっきまで跳ね上がっていた数字が、今は落ち着いて見える。それなのに、胸の奥ではまだ小さな波が残っていた。 「上がった、と思ったら……また気になっちゃうな」 呟いてから、澪は苦笑する。増えたのが嬉しい。けれど、それが続くのかが気になる。減ったらどうしよう、止まったらどうしよう。そんな考えが、次々に顔を出してくる。 そのとき、ふと湊大の言葉がよみがえった。焦るあまり変なものに頼ると、あとで戻すのが大変だ。信頼は時間がかかる。地味でも、続いていること自体が信用になる。 「……そうだよね。数字だけ見ても、きりがない」 澪は深く息を吐いて、解析画面を閉じた。閉じた瞬間、心の中のざわめきも少し小さくなる。短期的な結果は、確かに目に入る。けれど、あれに振り回されていたら、作品を育てる手が止まってしまう。 机の上には、まだ直したい紹介文のメモが並んでいた。タグの調整も、更新の流れも、やることは終わっていない。結果を追うより、積み上げる方が先だ。そう思うと、不思議と呼吸が楽になった。 「読まれたなら、次も読まれるようにするだけ」 誰に聞かせるでもなく言って、澪はキーボードを引き寄せた。派手な一発より、毎回少しずつよくしていくこと。それが自分のサイトを育てるいちばん確かなやり方なのだと、今ははっきり分かる。 検索順位の数字は、気にし始めればきりがない。けれど、作品を置き、説明を整え、読み手の迷いを減らすことなら、澪の手で続けられる。そこにこそ意味がある。 「積み上げた分だけ、ちゃんと残る」 小さくつぶやいた声は、深夜の部屋に静かに溶けた。澪は画面を開き直し、次に直す場所へ視線を移す。数字に一喜一憂する自分は、もう少しで終わりにできそうだった。

9章 / 全10

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