澪は朝の光がまだやわらかいパソコン画面を見て、思わず背筋を伸ばした。受信箱の上のほうに、見慣れない外部からの案内メールがひとつ届いている。件名だけでもやけに大げさで、目立つ言葉が並んでいた。 「登録すれば、すぐに見つかります」 「すぐに、って……」 澪は小さくつぶやき、マウスを動かして本文を開いた。そこには、何に登録するのか曖昧なまま、成果だけを強く押し出す文面が続いていた。紹介文の見直しやカテゴリ整理の話とは違う。説明は薄いのに、期待だけが妙に膨らんでいる。 「なんか、ふわっとしてる」 読めば読むほど、輪郭がぼやけていく気がした。何をどう改善するのかより、どれだけ早く結果が出るかばかりが書かれている。澪は湊大の言葉を思い出す。怪しい近道は、あとで戻すのが大変だ。あのときは半信半疑だったけれど、今なら少しわかる。 「安全で、確かな方法……」 澪は画面を見つめたまま、送信ボタンの近くで指を止めた。申し込めば楽になるのかもしれない。けれど、その楽さは自分の手で積み上げたものじゃない気がした。作品を読んでもらうための形を整えること、説明を分かりやすくすること、更新の流れを見せること。その方がずっと地味でも、ずっと誠実だ。 「焦らなくていい。まずは、自分で確かめられるものを選ぶ」 ひとつ息を吐いて、澪は送信操作をやめた。代わりに、メールをそのまま保留にする。消すでも、飛びつくでもない。今はまだ、決めないという選択だ。 画面の端で、未読の印が小さく光っていた。澪はそれを見ながら、次に何を整えるべきかを静かに考え始める。派手な言葉より、確かな手順。近道より、見える足場。朝の部屋に流れる空気は静かで、その静けさが、かえって迷いを切り分けてくれた。
積み上げる読者
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