リビングの灯りは、机の手元だけを少し明るくしていた。澪はソファの端に腰を下ろし、パソコンを開いたまま息を整える。カフェで聞いた 「案内板」 という言葉が、まだ頭の中で静かに響いていた。 「宣伝、じゃないんだよね」 自分に言い聞かせるようにつぶやいて、澪は作品一覧をひとつずつ見直した。並んでいるだけでは、初めて来た人にはどれも同じに見える。だからこそ、作品ごとの説明を添える必要がある。長すぎれば読まれない。短すぎれば、何も伝わらない。 「この作品は、何が好きな人向けかな……」 澪はキーボードを打ちながら、物語の雰囲気を言葉にしていく。切ない話、軽やかな話、静かな夜に合う話。自分ではわかっているつもりでも、外から見れば境目は曖昧だ。そこを一文でほどくように説明する。すると、一覧の表情が少しずつ変わっていった。 「うん、これなら迷いにくいかも」 作品名の下に置いた紹介文を読み返して、澪はうなずく。読み手が次にどこへ行けばいいか、自然に目で追えるように、関連する作品も近くへ寄せた。似た空気のものを並べるだけで、ひとつ読んだ勢いのまま次へ進めそうになる。 途中で、澪はふと手を止めた。これまでの自分は、見てもらうことばかりを考えていた気がする。けれど、今やっているのは、ただ目立つための飾りつけではない。 「読みに来た人が、困らないようにする……」 その言葉にした瞬間、胸の奥で何かがほどけた。案内を整えることは、押しつけることじゃない。入口で立ち止まる誰かの背中を、そっと支えることだ。そう思うと、紹介文の一文一文が、急にやさしい仕事に見えてきた。 澪は更新履歴の位置も確認し、少しでも動きがわかるように整え直す。何を読めばいいのか、今どこが新しいのか。迷わず辿れる形にしていくたび、画面の中のサイトが、少しずつ自分の手から離れて誰かのための場所になっていく気がした。 「……よし。これで、来た人が見やすくなる」 独り言は、部屋の静けさにやわらかく沈んだ。澪は肩の力を抜き、整った一覧を見つめる。単なる宣伝だと思っていた作業は、いつのまにか読者のための地図を描く仕事になっていた。 そのとき、更新画面の端に、まだ整理しきれていない作品の列がひとつ、静かに待っているのが目に入った。
積み上げる読者
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