エラベノベル堂

積み上げる読者

全年齢

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7章 / 全10

図書館のロビーへ出た瞬間、澪は外の夕方の気配がガラス越しに少し冷えているのを感じた。人の出入りが途切れたわけではないのに、空気だけが静かで、さっきまで読んでいた本の言葉がまだ耳に残っている。そのとき、見覚えのある声がした。 「澪」 振り向くと、湊大が柱の陰から軽く手を上げていた。 「こんなところで会うなんて珍しいね」 「こっちのセリフ。ちょっと寄っただけ」 澪は思わず苦笑して、それから手元のスマホを握り直した。昼に確認した案内ページが、まだ目の奥に引っかかっている。あの曖昧な文面は、見れば見るほど気になった。 「ねえ、これ見て」 澪は画面を差し出した。外部の登録案内を開いたままのページには、やけに派手な言い回しが並んでいる。すぐに上がる、簡単に広がる、今だけ特別。どれも強そうなのに、何に向かっているのかが見えない。 湊大は一度だけ目を通し、すぐに眉を寄せた。 「……これ、かなり危ないかも」 「やっぱり?」 「説明が薄すぎる。登録先も目的もぼやかして、期待だけ煽ってる。そういうのって、あとで中身が違っても逃げ道を残してることがある」 澪は喉の奥がひやりとするのを感じた。たしかに、メールの違和感と同じだ。便利そうに見えて、足場が見えない。 「私、少し迷ってたんだ。楽になれるならって」 「その気持ちはわかる。でも、見えないまま飛びつくのは危ない」 湊大の声は落ち着いていた。強く止めるというより、足元を照らすみたいだった。 「検索に強いとか、見つかりやすいとか言ってても、実際は雑な誘導かもしれない。登録してから何が起きるか分からないなら、触らない方がいい」 澪はスマホを見下ろした。ほんの少し前まで、こういうものに期待していた自分がいる。けれど今は、胸のざわつきの正体がはっきりしていた。焦りが、判断を鈍らせていただけだ。 「……危ない近道、ちゃんと避けられたんだね」 「そういうこと」 湊大は肩をすくめた。 「地味でも、自分で確かめられる方法の方がいい。前にやってた整理も、あれで十分ちゃんと進んでるだろ」 澪は小さく息を吐いた。怖かったはずなのに、不思議と胸の奥は少し軽い。飛びつかずに済んだことが、こんなにもほっとするなんて。 「ありがとう。危うく、変な近道に寄り道するところだった」 「寄り道ですむならいいけど、戻れない道もあるからな」 その言葉に、澪は背筋を正した。窓の向こうでは、街の明かりが一つずつ増え始めている。手元のページはまだ開いたままだが、もう迷いは少ない。 「私は、ちゃんと見えるところからやる」 そう言うと、湊大は短く頷いた。澪はスマホの画面を静かに閉じ、危うい案内の光を視界から消した。

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