エラベノベル堂

衝動の向こうで

18+ NSFW

小説ID: cmq6exft203n301t6zde6q12i

1章 / 全10

深夜の静寂が支配する都心のワンルーム。デスクライトの明かりだけが、積み上がった原稿用紙を照らしていた。作家の櫂は、何時間も前に止まった筆を握りしめ、白紙と向き合っていた。 「駄目だ……何も出てこない」 頭を抱え、深いため息をつく。売れっ子作家として名を馳せてから三年。かつては泉のように湧き出たアイデアは枯渇し、締め切りは目前に迫っている。櫂は視線を机の端に置かれた古びた一冊の本に移した。先日、古書店の片隅で見つけた『禁断の精神解放術』と記された怪しい文献だ。胡散臭さは拭えないが、藁にもすがる思いだった。 「本能を解放する、か」 ページを繰ると、儀式の手順が記されていた。ロウソクを灯し、特定の呪文を唱えるだけの単純なものだ。理性の枷を外し、抑圧された衝動を解き放つという。 「正気じゃないな」 そう呟きながらも、櫂は立ち上がった。キッチンの引き出しから買い置きのロウソクを取り出し、書斎の床に並べる。カーテンを閉め、ライトを消す。薄暗い部屋に、揺らめく炎が不気味な影を落とした。 「これでいいんだろ」 本の記述通り、両手を組み、唱える。 「我が内なる獣よ、鎖を断ちて解き放たれよ」 言葉は滑稽だった。だが、最後の音節を口にした瞬間、全身に熱い奔流が駆け抜けた。 「っ……!」 心臓が激しく脈打ち、体内で何かが弾けた感覚。視界が揺れ、瞳の奥が焼けるように熱い。その時、静寂を破る電子音が響いた。インターホンだ。 「こんな時間に……」 時計を見る。深夜の二時を回っている。モニターには、見覚えのある顔。担当編集者の美羽だった。普段の几帳面な彼女が、この時間に訪ねてくるなど異例のことだ。 「美羽?」 ドアを開けると、彼女は不安げな表情で立っていた。 「櫂先生、締め切りが……」 その言葉は途中で途切れた。美羽の瞳が、櫂の異変に気づいたように揺れたからだ。

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