結城彩は、朝の編集室に差し込む光の先で、更新画面をそっと見つめた。数週間前まで、ここは数字の少なさに胸を冷やす場所だった。けれど今は違う。erabenovel.com には少しずつ読者が訪れ、コメント欄と感想欄に短い言葉が増えていた。 「……来てる」 思わずこぼれた声は、驚きと安堵が半分ずつだった。彩の横で相沢誠が画面をのぞき込む。 「増えたな」 「うん。しかも、ちゃんと作品を読んでくれてる」 感想は派手ではない。けれど、どの言葉も作品の一行目や紹介文に触れていて、読者が入口で迷わずたどり着いたことを感じさせた。彩はコメントをひとつ指で追いながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを覚える。 「最初は、検索で見つかることばかり気にしてたのにね」 「今は違うのか」 誠が静かに聞く。 彩は少しだけ笑った。 「見つかるのは入口だったんだって、やっとわかった。大事なのは、そこから読まれ続けることなんだね」 不審な案内に揺れた夜のことを思い出す。あのとき近道に見えたものは、結局、足元を曇らせるだけだった。けれど、自分たちで見出しを整え、説明を短くし、導線を直し、重複を削り、読者が回りやすい形を地道に積み上げた結果、いまの静かな賑わいがある。 「派手な裏技より、正しい積み重ねのほうが強いんだな」 誠の言葉に、彩は深くうなずいた。 「うん。検索で見つかることより、読まれ続けることのほうが、ずっとサイトを育てるんだと思う」 画面の向こうでは、コメントの数がまたひとつ増えていた。誰かが作品を読み、誰かが感想を残し、その小さな往復が次の読者を呼ぶ。彩はその流れを見つめながら、もう焦らなくていいと知った。見つけてもらうために無理をするより、読みたいと思われた先で長く受け止められる場所にすること。そのほうが、ずっと確かな未来につながる。 「これで、やっと育ち始めた気がする」 彩の呟きに、誠は何も言わず、小さくうなずいた。モニターの光は静かに揺れ、読者の残した言葉だけが、確かな手応えとしてそこに残っていた。
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