結城彩は、編集室の受信箱に表示された件名を見て、指先を止めた。検索掲載を代行します、という短い文面は、やけに手際よく整っているのに、妙に体温がなかった。 「……これ、本物っぽく見えるけど」 画面を覗き込んだ相沢誠が、眉をひそめる。 「見えるように作ってあるだけだな。急いで飛びつくと危ない」 彩は喉の奥がきゅっと縮むのを感じた。検索で見つかりにくい現状を思えば、心が揺れるのは当然だった。だが、その揺れに乗れば、今まで整えてきた案内文も導線も、意味を失う気がした。 「でも、代わりにやってくれるなら、少し楽になるんじゃ……」 「楽になる代わりに、何を差し出すかだ。公式の手順を確認しないまま進めるのは早い」 誠の声は静かだったが、迷いを切り裂くみたいに鋭かった。彩は受信箱を見つめたまま、唇を噛む。 「近道に見えるものほど、怖いね」 「うん。特に、手順を曖昧にしたまま進める話はな」 彩は、これまで積み上げてきたことを思い返した。トップページの役割を分け、作品紹介を短く整え、読者が迷わない言葉を探してきた。あれは派手ではない。でも、確かに自分たちの手で確かめながら進めてきた道だ。 「公式の案内を、もう一度見直す」 そう言うと、誠が小さくうなずいた。 「それがいい。焦って外に寄りかかるより、自分たちの設定を固めたほうが安全だ」 彩はマウスを動かし、件名を選択したまま、すぐには削除しなかった。まずは比べるためだ。何が食い違っているのか、どこが不自然なのか。逃げずに確かめる。 「なんだか、あの文面だけで、こっちの足元が試されてる気がする」 「試す側が怪しいだけだ」 誠の返事に、彩は思わず吹き出した。張りつめていた空気が少しだけほどける。 「うん、そうだよね。私は、ちゃんとしたやり方で進める」 「そうしよう。急がなくていい」 受信箱の光は、まだ冷たく画面に残っていた。それでも彩の中では、揺れた気持ちがゆっくり定まっていく。近道の甘さではなく、確かめる手間を選ぶ。その決意を胸に、彼女は公式の手順を開く準備を始めた。
作品を届ける導線
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