結城彩は、窓際の席でカップを両手に包みながら、画面の白さを見つめた。朝の柔らかな光がグラスに反射し、テーブルの端に小さな影を落としている。隣には、相沢誠が静かにノートを広げていた。 「作品ごとに、ひと目で伝わる言い方が必要だよね」 彩が言うと、誠はペン先を止めた。 「長い説明じゃなくて、入口で迷わないための一行だな」 「そう。それを複数案、まとめたい」 彩はうなずき、開いていた表に視線を落とした。作品名の横に、短い紹介文をいくつも並べていく。静かな恋を描くものには、そっと胸に残る一文を。鋭い展開の作品には、先を知りたくなる一文を。どれも大げさにはしない。ただ、読者が足を止めたとき、次へ進む理由になるように。 「これ、どうかな。『やさしさの中に、少しだけ痛みがある』」 「悪くない。雰囲気が出てる」 「こっちは? 『静かな朝に、ひとつの秘密がほどける』」 「いいね。内容の輪郭が見える」 褒められるたび、彩の指先が少し軽くなる。けれど、ただ文を磨くだけでは足りない。読者が探している作品にたどり着けるように、並び方そのものも変えたかった。 彩は別の画面を開き、分類の一覧を見直した。 「ジャンル順だけだと、探しづらいのかも」 「気分で探す人もいるしな」 「うん。だから、雰囲気や読み味でも分けられたら、入りやすい」 誠は少し考えてから、分類名の横に小さく印を付けた。 「似た作品を近くに置けば、探してる人の目に止まりやすい。更新が新しいものも、見つけやすい位置に寄せたい」 「更新の見え方も、もっとわかりやすくしたいね」 彩はそう返しながら、行の順番を入れ替えていく。作品の魅力が一行で伝わること。分類が迷いを減らすこと。その二つが噛み合うと、サイトの表情まで変わる気がした。 「派手な仕掛けはなくても、たどり着ける形にはできる」 誠の声に、彩はふっと息をついた。 「うん。読んでもらう前の段階で、ちゃんと手を伸ばせるようにしたい」 カップの中の温かさはもう少しで消えそうだった。それでも、表の中では、紹介文と分類の並びが少しずつ整い、探しやすさの輪郭が確かに浮かび上がっている。彩は最後の一行を書き足し、隣の誠と目を合わせた。 「これなら、読者が作品まで迷わず来られるかも」 「たぶん、かなり近づく」 その言葉にうなずいた瞬間、彩の視界の端で、まだ空白のまま残された欄がひとつだけ、妙に目立って見えた。
作品を届ける導線
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