エラベノベル堂

シンクロニシティ・オーバー

全年齢

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2章 / 全10

「再検査って、あの不適合の件か」 呼び出しの端末を見つめたまま、俺は乾いた声を落とした。逃げたところで結果が変わるわけじゃない。むしろ、こうしてまた名指しされるほうが厄介だ。だが案内に従ってリンク管理局へ向かうしかなかった。 待機室は、白すぎるほど静かだった。椅子も壁も無駄に整っていて、落ち着くどころか息が詰まる。俺は末席に腰を下ろし、膝の上で指を組む。目の前の表示板には、再検査対象の名前が淡々と並んでいた。 「……ほんとに俺だけ、戻されるのかよ」 独り言に返事はない。いや、あるはずもない。そう思った瞬間、向かいの扉が開いた。 入ってきた女は、妙に目を引いた。背筋の伸び方も、歩幅も、視線の置き方も、どこか人間らしさを綺麗に整えすぎている。何より、近づいてきた途端、空気のざらつきが消えた。代わりに、胸の奥をなでるような静かな圧が広がる。 「あなたが、再検査の人?」 低くて澄んだ声だった。俺は思わず立ち上がりかけて、やめる。 「そういう君は、誰だ」 「……私は、先に呼ばれただけ」 言いながら、彼女はほんのわずかに眉を寄せた。こちらを値踏みするような目ではない。ただ、見れば見るほど視線の奥が揺れる。初対面のはずなのに、どこかで同じ空気を吸ったことがある気がした。 その感覚に戸惑ったのは、たぶん彼女も同じだった。 「二人とも、座ってください」 入室してきた職員が、事務的に言う。手元の端末を操作すると、待機室の中央に薄い光の枠が浮かんだ。 「今回の再検査は、個別判定ではありません。特殊適合の確認を含みます。あなた方は本日より、管理局指定のペアとして扱われます」 「は?」 「冗談だろ」 俺と女の声が、ほぼ同時に重なった。職員は表情ひとつ変えない。 「超稀少な完全同期型です。単独での観測は不十分なため、同居実験への参加をお願いすることになります」 女が椅子を鳴らして立ち上がった。 「勝手に決めないで」 「同感だ。俺は検査で不適合だったはずだ」 「だからこそ確認が必要です」 淡々とした返答に、喉の奥が熱くなる。だが怒鳴るより先に、変な感覚が走った。彼女も同じように肩をこわばらせているのに、その奥に、言葉にならない緊張がある。それが妙に近い。見知らぬはずなのに、知っている気がする。 彼女もこちらを見返し、目を細めた。 「……あなた、変な感じがする」 「そっちこそだ」 言い返した瞬間、なぜか互いに息を止めた。苛立っているのに、嫌悪だけでは終わらない。胸の底に、説明のつかない既視感が沈んでいる。 職員は端末を閉じた。 「手続きは完了しています。詳細は移送先で説明します。二人とも、準備を」 準備なんてできるものか。そう言いかけた俺の前で、彼女が小さく視線を逸らした。その横顔は、強気なくせに今にも壊れそうで、なのに妙に目が離せない。 俺は結局、何も言えなかった。言葉にしたら、この妙な感覚まで壊れそうで。 静まり返った待機室の中、ペアとして並べられた距離だけが、やけに現実だった。

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