エラベノベル堂

検索に届く物語

全年齢

小説ID: cmrcga7ol000o01pczhzm01f3

6章 / 全10

ベンチの木目は、朝の冷たさをまだ少し残していた。陽介はそこに腰を下ろしたまま、スマホの画面を親指で何度もスクロールする。外部の案内先を確認するたび、さっきまで抱えていた迷いが少しずつ形を変えていった。 「登録すること自体より、こっちか……」 思わず漏れた声は、駅前のざわめきに溶ける。目立つ言葉を並べればいいわけじゃない。正しい情報を載せるのは前提で、そのうえで、そこに書かれたサイトが安心して見えるかどうかが大事なのだと気づいた。 案内ページを開き直し、陽介は自分の紹介文を見比べた。少し前までの文は、どこか急いでいるように読める。検索に引っかかればそれでいい、そんな焦りが言葉の端々に残っていた。 「……これだと、固いな」 彼は小さく息を吐いて、入力欄に指を置く。誇張した表現を削り、言い回しをやわらげ、誰が読んでも状況がわかる順番に整え直す。サイトの名前、何を載せているのか、どんな雰囲気なのか。その一つひとつを、背伸びせずに伝える。飾りを増やすのではなく、誠実さがにじむ形へ寄せていく作業だった。 画面の中で、文の長さが少しずつ整っていく。読んだ瞬間に身構えさせるような強さはない。けれど、だからこそ目にやさしかった。 「こういうほうが、ちゃんと見てもらえるかもしれない」 誰に向けて書いているのかを考えると、言葉は自然に静かになる。陽介は紹介文の最後まで読み返し、語尾に残っていた力みを抜いた。すると、同じ内容なのに印象が変わる。案内のための文章なのに、そこに書き手の態度まで映るのだと、今さらながら思い知らされた。 駅のアナウンスが近くを流れていく。人の流れは速いのに、ベンチの上の時間だけが少し遅い。陽介は更新を反映させる前の文と見比べ、何度目かの修正を入れた。 「うん、これなら……」 言い切る直前で、彼は口を閉じた。まだ完成ではない。それでも、ただ送るだけでは届かないという感覚ははっきりしている。サイトそのものの信頼感を高めること。紹介文を自然で誠実なものに改めること。その二つが、今は同じ線の上にあった。 陽介はスマホを握り直し、最後の一文を見つめる。朝の空気の中で、文字は静かに整っていた。

6章 / 全10

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