エラベノベル堂

検索に届く導線

全年齢

小説ID: cmrtx8dpd000801pcdu2xqegh

2章 / 全10

夕方の光は少し傾いて、作業机の上に置いたメモ帳の影を長く伸ばしていた。さっきまでの静かな高揚はまだ消えていない。けれど画面を開き直した俺は、まず一つずつ確認することにした。 「えらべのべる、か……」 口の中で転がしてみると、名前そのものは悪くない気がする。だが、もし誰かが見たときに覚えやすいか、何のサイトか伝わるかは別問題だ。俺は管理画面を開き、サイト名の表記を何度も見比べた。ひらがなで親しみを出すか、ローマ字で統一するか。揺れたままでは、入口で迷わせるだけだ。 次に説明文を読み返す。作ったときは勢いで書いた文だ。今見ると、伝えたいことが少し散らかっている。 「ここは、何を置く場所なんだ……」 自分に問いかけながら、一文ずつ削っては足した。長くしすぎるとぼやける。短すぎると味気ない。検索で拾われる言葉を意識しながらも、読む相手が息苦しくならない程度に整える。そんな微妙な調整が、妙に難しい。 ページ構成にも手を入れた。トップ、案内、更新記録。それぞれの役割が曖昧だと、サイト全体がふわついて見える。俺はリンクの並びを入れ替え、似た内容のページが重ならないように見直した。 「これで、少しは分かりやすくなるか」 誰に聞くでもなくつぶやく。返事はもちろんない。でも、画面の並びが整っていくたびに、胸の奥のざわつきが静かになっていった。たった数文字の修正でも、見え方は変わる。名前の統一、説明の明確さ、ページの役割分担。どれも小さいのに、積み重なれば全体の印象を変えるはずだ。 俺は椅子に背を預け、しばらく完成した画面を眺めた。まだ誰も来ていない場所だ。なのに、こうして手を入れるだけで、世界のどこかに糸を伸ばしているような気がする。 見つけてもらうための準備は、派手じゃない。けれど、この地味な修正のひとつひとつが、いつか大きな違いになるのかもしれない。 そう思えた瞬間、俺はもう一度カーソルを動かした。

2章 / 全10

TOPへ