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源流をめぐる競争

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10章 / 全10

泉の熱が、ゆっくりと引いていくのがわかった。さっきまで胸の奥で跳ねていた鼓動も、冷たい岩肌に手をつくうち、少しずつ自分のものに戻ってくる。 「……落ち着いた、みたいですね」 彼女が息を整えながら言った。 「君もな」 「ええ。でも、今のはなかなか恥ずかしいです」 「珍しく同意する」 そう返すと、彼女はむっとした顔をしながらも、すぐに苦笑した。泉の縁で見つめ合っていたあの妙な熱は、もう霧のように薄れている。代わりに残ったのは、逃げ場のない静けさと、ここまで来るまでの自分たちの動きだった。 僕は膝をついたまま、洞窟の出口へ向かう風を感じた。あの細工された装備、村での言い回し、洞窟の奥で水が別の道へ導かれていたこと。ばらばらだった出来事が、ようやく一本につながる。 「水が消えたんじゃない」 僕が言うと、彼女もすぐに頷いた。 「ええ。山の中で、ちゃんと巡っていたんです。人の都合で見えなくなっていただけ」 「川を支えるための仕掛け、いや、仕組みか」 「自然の循環を守るために、あの泉が要になっていた。村が距離を置いていたのも、むやみに触れさせないためでしょう」 言葉にすると、妙に納得がいった。派手な秘宝でも、伝説の罠でもない。ただ、この山に生きる水を守るための、古くて静かな工夫だ。そう思うと、勝ち負けの輪郭も少し変わる。 「つまり、僕らは当たりを引いたわけだ」 「先に言うんですか」 「報告書に書くのは僕だ」 彼女が悔しそうに目を細めた。 「……その顔、腹立ちますね」 「褒め言葉として受け取る」 「嫌な人」 「君ほどじゃない」 そう言いながら、僕は鞄から報告書の束を取り出した。湿気で少し反った紙を膝で押さえ、泉の位置、村で聞いた証言、洞窟内の水の流れ、そしてこの仕組みが山の循環を支えている可能性を、要点ごとに書き込んでいく。考えがまとまるほど、手元は速くなった。 彼女はその横で、じっと文字列を見ていた。 「先生、それ……」 「何だ」 「ちゃんと、勝ちに来てますね」 「もちろんだ。依頼は勝ち取る」 彼女は少しだけ唇を尖らせたあと、ふっと肩の力を抜いた。 「じゃあ、私は次で勝ちます」 「次?」 「ええ。次の勝負です。先生が先に進むなら、私も必ず追います」 洞窟の外から、夕方の色が薄く差し込んでくる。僕は最後の行を記し終え、紙束をきちんと揃えた。これで、報告は形になる。危険な山を抜けた先で、誰がこの成果を受け取るかも、もう揺らがない。 「約束だ」 僕がそう言うと、彼女は驚いたように目を瞬かせ、それから小さく頷いた。 「ええ。次は、負けません」 「僕もだ」 鞄を背負い直す。洞窟の出口はもうすぐだ。報告書は完成した。依頼は僕のものになる。だが、それだけで終わる気はしなかった。 岩の隙間から射す光のほうへ一歩踏み出すと、冷えた空気の向こうに、さらに広い山並みが待っている気がした。僕は紙束を胸に押さえ、振り返る。 「先に降りるぞ。君も置いていかれるな」 「その言い方、ずるいです」 彼女の声を背に受けたまま、僕は洞窟を出た。山の下には、まだ見ぬ地がある。僕は新しい依頼書を思わせる空白の向こうへ、もう一度足を向けた。

検閲済みプロット

主人公は大学の助教授で探検家。とある国の水量が失われてしまった川の源流調査を依頼される。現地調査を進めていると、同様の依頼を受けたライバルの女学生が現れる。手柄を横取りされないよう、互いを出し抜きながら探検を進めていく。源流と思われる洞窟の奥へ、危機を乗り越えて進んでいくと小さな泉が見つかる。現地ガイドが説明を始めるが、のどが渇いていた主人公とライバルは泉の水を迷わず飲んでしまう。実は泉の水には強い陶酔効果があり、お互いを意識しすぎて理性が揺らいでしまうというコメディ。主人公が勝利し、次の冒険に向かうところでラスト。

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