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つながりを残すデータ

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第1章 / 全10章

受信箱の未読がひとつだけ、やけに白く浮いていた。 差出人はFreeB2BData、件名にはサービス終了のお知らせ。開く前から胸の奥がざわついたのは、仕事の通知にしては妙に静かな文面が見えたからだ。 画面を開いた瞬間、俺は思わず息を止めた。 担当者名はLiza Self。そこに並んでいたのは、サービスを終了すること、そして二十四時間以内に必要なデータをダウンロードしてほしいという、あまりにもあっさりした通知だった。 「え、終わるのかよ……」 誰に向けたでもない声が、机の上で乾いた。 朝の忙しさに紛れて処理するつもりだった未読メールが、いきなり会社の土台を揺らす種類の話になるなんて思っていなかった。しかも猶予は一日。考える時間がないわけではないのに、考え始めた瞬間から追い立てられている気分になる。 俺は椅子に深く座り直し、メール本文をもう一度上から下までなぞった。終了日、退避期限、ダウンロード手順。丁寧ではある。だが丁寧であることと、余裕があることは違う。 「まず、何を残す?」 声に出した瞬間、頭の中が少しだけ整理された。 全部を一気に救おうとすると、たぶん間に合わない。なら先に優先順位を決めるべきだ。会社として今すぐ使う取引先一覧。営業に渡すべき連絡先。過去の案件に紐づく記録。個人の感覚で抱え込むべきものと、共有しておくべきもの。 画面の明るさがやけに強く見える。いつもなら見慣れた業務ツールのログイン画面も、今日は違う顔をしていた。 俺は指先をキーボードに置いたまま、深呼吸をひとつした。 慌てて保存してはいけない。だが、止まっていてもいけない。 会社の受信箱に届いたたった一通のメールが、今日一日の形をもう決めてしまったのだから。

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