朝の気配が広間の高い窓から差し込み、磨かれた石の床に淡い筋を落としていた。昨夜までの冷えがまだ壁際に残っているのに、今日はその中心に、いつもとは違う重さがあった。長卓の片側には人間側の使者たちが硬い背筋のまま並び、もう片側には魔族の代表が腕を組んで座る。視線だけで空気が擦れそうだった。 私は卓の端で、布を外した大皿を順に見渡した。昨夜遅くまで整えた料理は、どれも片方の文化だけに寄せないようにしたつもりだ。温野菜には人間の香草を合わせ、煮込みには魔族の濃い旨味を少しだけ重ねる。最初の皿を置くと、使者のひとりが露骨に眉をひそめた。次の瞬間、別の代表が鼻先を近づけ、警戒を隠したまま口を開く。 「……匂いは悪くない」 そのひと言で、卓の端に張りついていた硬さが少しだけ緩んだ。私は続けて、薄く焼いた穀物の生地に酸味のある漬け物を合わせた一品を出す。魔族側の代表が不満そうに皿を見たが、口にした途端、眉間の皺が浅くなった。 「妙だな。軽いのに、腹に残る」 「乾物の旨味を少し使っています。あと、酸味で重さを切りました」 説明すると、今度は人間側の使者が箸を止めたまま目を細めた。異質なものを混ぜた料理ではなく、互いの食べ方を壊さないように並べた皿。その意図が、少しずつ伝わり始めていた。言葉より先に、椀が空になっていく。ぎこちなかった沈黙の中に、食べる音だけが増えていくのを私は見守った。 やがて最後の皿に手を伸ばした、そのときだった。指先に、床の奥から鈍い震えが伝わる。小さな揺れではない。卓の脚がかすかに鳴り、吊された布が目に見えるほど揺れた。会場のざわめきが一斉に止まる。 私は皿を持ったまま息をのんだ。広間の奥、見えないはずの地下へと続くような場所から、封印に触れたような異音が、低く、深く響いてくる。
魔王城厨房、和解は湯気の向こう
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