放課後の教室は、昼の熱気が少しだけ残っていた。窓の外では、部活へ向かう足音が遠ざかり、黒板の文字も夕方の光に薄く沈んでいる。机を寄せた前の席で、凛奈は文化祭の企画書を見つめたまま、鉛筆の先を止めていた。白い紙の上に並ぶ項目は多いのに、どれもまだ形にならない。隣で愛梨がまとめた下書きも、何度か線を引き直した跡が残っている。 「ここ、もう少し目を引く言い回しにしたいんだけど」 愛梨が笑って言う。けれどその声には、いつもの勢いが少し薄かった。凛奈はうなずきながら、言葉を探す。 「でも、盛り込みすぎると、何をしたい企画か分かりにくくなるかも」 「うん、それはそうなんだけど……」 行き詰まった空気が、紙の重さみたいに二人の間へ落ちる。凛奈は自分の意見が正しいのか不安になり、視線を机に落とした。愛梨もペン先をくるくる回し、少しだけ黙り込む。さっきまで自然に交わせていた会話が、急に角を持ったみたいにぶつかり合う。気まずさがじわりと広がり、凛奈は胸の奥が縮むのを感じた。 「私、変なこと言ったかな」 思わず漏れた声に、愛梨ははっとしたように顔を上げた。 「ううん、そんなことない。凛奈ちゃんって、ほんと真面目だよね。ちゃんと考えてくれるから、助かってる」 その言葉は、予想よりずっとやわらかく胸に落ちた。凛奈は目を瞬かせる。責められると思っていたのに、愛梨は笑っていた。少し照れたような、でもまっすぐな笑顔だった。 「私、勢いで押し切っちゃうことあるから。止めてくれるの、すごくありがたい」 凛奈は顔が熱くなるのを感じながら、こわばっていた肩を少し下ろした。真面目だと言われたことが、こんなふうに嬉しいなんて知らなかった。 「愛梨は、発想がすごいよ。私には思いつかないことばかりで」 「ほんと?」 「ほんと。だから、うまくまとめたらすごくいい企画になると思う」 愛梨はぱっと表情を明るくし、それから吹き出した。 「なにそれ、褒めてるのに妙に堅い」 「だって、ちゃんと伝えたかったから」 そのやり取りに、二人とも我慢できずに笑った。さっきまでの気まずさが嘘みたいにほどけていく。鉛筆の跡だらけの企画書を見下ろしながら、凛奈は気づく。自分は愛梨に認められたいのだと。そして愛梨もまた、自分の言葉を待ってくれているのだと。ふたりはただの作業相手ではない。そう思った瞬間、胸の奥で静かに何かが形を持った。特別だと気づいたその感覚に、まだ名前はない。それでも、見つめ合った拍子に逸らしきれない視線の熱だけが、確かに残っていた。
夕映えの図書室、手をつなぐまで
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