エラベノベル堂

夕映えの図書室、手をつなぐまで

全年齢

小説ID: cmnehanr2000001nalsutksi4

6章 / 全10

祭りの灯りは、夜気の中でいくつも揺れていた。人いきれと綿あめの甘い匂いが混じり合い、凛奈は浴衣の袖をそっと押さえながら、待ち合わせの場所を見回す。提灯の橙色が並ぶ通りの先で、愛梨が小さく手を振った。薄い藍の浴衣がよく似合っていて、いつもより少し大人びて見える。 「ごめん、待った?」 「ううん、今来たところ」 そう答えた凛奈の声は、思ったより落ち着いていた。けれど愛梨が近づくにつれ、胸の奥がじわりと熱を持つ。二人並んで歩き出すと、屋台の呼び込みや子どもの笑い声が四方から降ってきた。けれど隣に愛梨がいるだけで、凛奈はそれほど怖くなかった。 金魚すくいの水面には、赤や白の小さな影が光っていた。凛奈がポイを持つ手に力を入れると、紙がふわりと揺れて破れそうになる。愛梨は横で息を殺しながら見守っていたが、結局二人とも上手くいかず、顔を見合わせて笑った。 「難しいね」 「うん。でも、見てるだけでもきれい」 次の射的では、愛梨が軽やかに景品を狙い、紙風船がぽん、と弾ける音に凛奈が肩をすくめた。手元がふらついた愛梨を見て、凛奈は思わず袖をつかみそうになる。笑い合いながら人混みの流れに戻った、その瞬間だった。前を歩く人波が一気に詰まり、凛奈は愛梨の姿を見失いかける。 「愛梨」 呼んだ声は祭りのざわめきに飲まれた。次の瞬間、手首に強いぬくもりが走る。振り返ると、愛梨が凛奈の手をしっかり握っていた。指先にこもる力が、はぐれないようにと必死に伝えてくる。 「こっち」 その一言だけで、凛奈の足は自然に動いた。握られた手は驚くほど熱く、ほどけそうにないほど真っ直ぐだった。人波から少し外れた先には、川へ向かう細い道がある。喧騒が背中で遠のくにつれ、祭りの音は少しずつ薄まり、代わりに水の気配が近づいてきた。 橋の下を流れる川面は、月の光を細く砕いていた。風が頬を撫で、さっきまでの熱気が嘘のように静かになる。凛奈はようやく息をつき、握られたままの手を見下ろした。 「……ごめん、迷子みたいになった」 「大丈夫。ちゃんとつかまえたから」 愛梨はそう言って、少し照れたように笑う。凛奈は何も言い返せなかった。ただ、手の温度が胸の奥へそのまま落ちていくのを感じていた。言えずにいたことは、ずっと前からある。けれど今はまだ、祭りの喧騒の外側で、互いの呼吸だけが近い。川沿いへ向かう細い道を二人で並んで歩きながら、凛奈は愛梨の横顔をそっと見た。何かを言い出せそうで、まだ言い出せない。その境目が、夜風の中で静かにふくらんでいた。

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