エラベノベル堂

夕映えの図書室、手をつなぐまで

全年齢

小説ID: cmnehanr2000001nalsutksi4

7章 / 全10

川のせせらぎは、祭りのざわめきを薄くほどいていた。ベンチに並んで腰を下ろすと、さっきまで強く握られていた手の熱が、まだ指先に残っている気がした。凛奈は膝の上で浴衣の布をそっと整え、遠くで上がる花火の音に耳を澄ませる。夜空にひらく光は見えないのに、胸の奥まで響いてきて、静かな鼓動をいっそう大きくした。 愛梨は川面を見つめたまま、何も言わない。けれどその沈黙が怖くないことに、凛奈は気づいていた。隣にいるだけで安心できる。その理由を、今までうまく言葉にできなかったのに、今日ははっきりわかる気がした。 「私ね」 自分の声が思ったよりかすかに揺れて、凛奈は一度だけ息を吸う。 「愛梨と一緒にいると、変に頑張らなくていいって思えるの。気を張らなくても、置いていかれないっていうか……たぶん、そういう安心があるから、隣にいたくなるんだと思う」 言い終えたあと、急に顔が熱くなった。こんなふうに真っ直ぐ言うのは、ひどく勇気がいる。なのに愛梨は、からかうでもなく、ただ小さく目を見開いていた。 「……そっか」 返事はそれだけだったのに、声の震えがやけにやさしい。 「私もね、凛奈ちゃんに救われてたよ」 愛梨は川風に髪を揺らしながら、少しだけ俯いた。 「私、明るくしてるけど、ほんとは雑に元気なふりをしてるときもあるの。そんなときでも、凛奈ちゃんは急かさないで聞いてくれるでしょ。笑わせようとしなくても、そこにいてくれる。それが、すごく楽だった」 凛奈は瞬きを忘れた。控えめな優しさなんて、意識したこともなかった。ただ、自分にできる範囲で隣にいただけだ。それが愛梨の支えになっていたなんて、信じられないほど嬉しかった。 「友達として好き、だけじゃないのかもしれない」 愛梨の言葉は、夜の水面に落ちた灯りみたいに静かだった。 凛奈は何度も胸の奥で反芻して、ようやくうなずく。 「私も……同じ」 それだけで、十分だった。言葉が少ないぶん、互いの視線が真剣になる。近づきすぎて逃げ場のない距離なのに、離れたいとは思わない。むしろ、確かめるたびに息が苦しくなるほど、相手の存在が鮮明になっていく。 愛梨の頬が薄く赤く染まっていた。凛奈もきっと同じだろう。互いに顔を見合わせて、照れたように視線を逸らす。そのくせ、次の瞬間にはまた見てしまう。真剣さが熱になって、静かな夜の中でゆっくり形を変えていく。 遠くでまた花火が鳴った。二人は同時に顔を上げ、それから何も言わずに、ただ隣にいることを選んだ。

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