エラベノベル堂

吹雪の山小屋、告白は暁に溶ける

全年齢

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3章 / 全10

倉橋の提案で、全員は乾いた板の間に円を作るように座った。濡れた衣類から立つ冷えた匂いと、湯気の薄い温かさが入り混じる。順番に、今日ここへ来るまでの行動と、小屋に入ってから触れた物を話す。ただそれだけのことなのに、誰もが自分の声の置き場を探すように言葉を選んだ。 他大学の三人は、朝に別の登山口から入り、稜線手前で撤退を決めたという。代表の青年は相沢と名乗り、地図を乾かしていた女性は市原、もう一人の小柄な男子学生は野添だった。彼らの話に大きな破綻はない。だが、野添が 「古い小屋は地図に薄く載っていたから」 と言ったとき、真白はその視線が一瞬だけ古地図へ滑ったのを見た。知っていたのはこの小屋だけではないのではないか、と思う。 部内の話になると、空気はさらに重くなった。紺野は記録係を任されているのに、計画書の上書きはしていないと言い切った。由良は夕方、入口付近で手袋を探していたと話し、そのとき記録ノートの背表紙が不自然に浮いているのを見たという。蓮見は小屋に着いてすぐ棚を確認し、ランタンが足りないことにはその時点で気づいていたが、無用な混乱を避けて黙っていたと認めた。それを聞いた紺野がまた皮肉を口にしかけたが、倉橋が視線だけで制した。 真白は皆の靴に目を向けた。床は乾ききらず、歩けば薄く跡が残る。入口脇から棚へ、棚から窓際へ、細い往復の跡がある。だが記録ノートの置かれた台の前には、濡れた靴底の跡が途中で途切れていた。そこで靴を脱いだか、あるいは最初から室内履きのように静かに動いた誰かがいたことになる。小屋に慣れている者の動きだ、と真白は思った。 やがて消灯の相談になり、見当たらないはずのランタンが思わぬ場所から出てきた。水場へ続く裏口の脇、使われていない木箱の陰で、芯だけが抜かれた状態で横たわっていたのだ。見つけたのは市原だった。悪意というより、点けられないように隠した置き方に見えた。真白はそこで、丸印のついた古地図の位置と、裏口の向きが同じ北側であることに気づく。誰かは明かりを減らし、裏手へ人が出るのを防ぎたかったのかもしれない。 「北側に何があるんだろうね」 一年生の震えた声に、誰もすぐには答えなかった。古地図をのぞきこんだ倉橋の眉間が、初めてはっきりと寄る。倉橋は何かを知っている顔だった。だが口を開く前に、蓮見が低く言った。 「その破線、昔の巻き道だ。今は使われていない」 知っていたのか、と紺野が食い下がる。蓮見は短くうなずいたものの、その先を言わない。倉橋も黙ったままだった。隠しているのは一人ではない。真白はその沈黙の形を見て悟る。個人の悪意ではなく、複数人が別々の理由で同じ場所を避けようとしている。 夜は更け、風に混じって屋根を擦る細かな音が聞こえ始めた。雪だった。真白が毛布を取りに入口脇へ行くと、記録ノートの間から紙の端が覗いているのに気づいた。開くと、最近のものではない遭難記録の頁番号が、途中で不自然に飛んでいた。破られた跡は古いが、そこだけ紙の繊維が新しくささくれている。ついさっき、誰かが改めて触れた跡だった。 振り向くと、薄暗い中で倉橋と蓮見の視線がぶつかり、すぐに逸れた。真白の背筋を、冷たいものが静かに降りていく。今回の山行で露わになっているのは、今夜の小さな隠し事だけではない。この小屋に来る道筋そのものに、前から誰かのためらいと決意が織り込まれていたのだ。

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