乾いた紙の擦れる音は、妙に大きく聞こえた。 「違う、これは……」 慌てた声が上がるが、誰もそれ以上は追い詰めない。追い詰めたところで、今のこの小屋の空気はもっと重くなるだけだと、全員がわかっていた。 顧問が静かに立ち上がる。 「探し物は続けるが、まず食べるものと毛布だ。体温を落とすな」 その一言で、皆がばらばらに動き出した。僕は先輩と手分けして物置へ向かう。狭い扉を開けると、湿った木と古い布の匂いがむっと押し寄せた。 「暗いな……」 「足元、気をつけろ」 積まれた箱の隙間に手を差し入れながら、僕らは缶詰と毛布を探した。だが奥へ手を伸ばした先輩の動きが、ふいに止まる。 「おい、これ」 「どうしたんですか」 「壁、ずれてる」 懐中電灯を向けると、板の継ぎ目が少し浮いていた。外からはただの壁に見えるのに、指先で押すと妙な遊びがある。 「誰かが開けたあとかもしれない」 先輩が低く言い、そっと板を外した。すると、裏に挟み込まれていた薄い紙束が、息を潜めていたものみたいに滑り出してくる。 「……記録?」 黄ばんだ宿泊記録だった。日にちも名前もかすれているが、何度も使われた小屋の癖が、行ごとに残っている。 その下から、さらに小さく折られた紙が出てきた。 「メモだ」 僕は息を止める。そこには、乱れた字で短く一行だけ書かれていた。帰れ。旧道は使うな。山を忘れるな。 「遭難者の……?」 先輩がつぶやく。誰かが最後に残した言葉だと考えると、紙が急に生々しくなった。 僕は記録の端をめくり、ある山名に目を留めた。 「……これ」 「何かあった?」 「この山、うちの妹が前に口にしてた。実家の人が昔、そこに行ったって」 言った瞬間、空気が変わった。たったそれだけの一致なのに、妙に身体の芯へ冷たさが落ちる。 「本当に、その山か」 「うん。聞き間違いじゃない。珍しい名前だから、覚えてる」 先輩はメモと記録を照らし合わせ、何も言わずに唇を結んだ。顧問が物置の入口に立ち、こちらの様子を見ている。 「見つかったか」 「はい。でも……」 僕は紙を持つ手に力を入れた。メモはただの記録じゃない。ここにいた誰かの息づかいが、まだ紙の上に残っている気がした。 その時、床近くの木箱の裏で、先輩が小さく声を漏らした。 「ここにもある」 懐中電灯を向けると、板の隙間に、爪先で刻んだような小さな印があった。山で道を示す者だけが知る、古い合図だと、なぜかそう思えた。 僕らは顔を見合わせたまま、しばらく動けなかった。物置の暗さの中で、古い紙と小さな印だけが、やけに鮮やかに浮かんでいた。
吹雪の山小屋、告白は暁に溶ける
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