エラベノベル堂

吹雪の山小屋、告白は暁に溶ける

全年齢

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6章 / 全10

眠れないまま、僕は寝袋の中で何度も寝返りを打っていた。外ではまだ風が鳴っていて、屋根を打つ音が薄い眠気を押し流していく。誰かの寝息も落ち着かず、寝室の空気は湿った布みたいに重かった。 「……起きてるか」 小声で呼ばれて顔を上げると、先輩が懐中電灯を手にこちらを見ていた。 「うん。眠れない」 「だろうな。俺もだ」 眠れないのは僕だけじゃなかった。先輩は窓の方を一度見てから、壁際の梁を指さした。 「少し見てみよう。気になる」 「梁?」 言われて目を凝らす。暗がりの天井近く、木材の継ぎ目にわずかな歪みがあった。先輩が椅子をずらして手を伸ばし、板の隙間を照らす。細い光が走った瞬間、そこに紙の端が覗いた。 「……あった」 「え、何が」 「地図だ」 先輩が慎重に指を差し入れ、折り畳まれた紙を引き出した。ぱさり、と乾いた音が寝室に落ちる。見慣れた古い地図の紙面が、何度も折られた跡を残したまま手の中に現れた。 「これ、消えた切れ端……」 僕は思わず身を乗り出した。昨夜から散々探しても見つからなかった一枚が、まるで最初からここに隠れていたみたいだった。 「どうして梁の隙間に?」 「隠すなら、まず目につかない場所だろ」 先輩はそう言いながら、紙を寝台の上に広げた。灯りにかざされた断片には、普通の登山道とは違う線が走っている。地形に沿うような細い道、印のように置かれた丸、そして小屋の周辺を囲むような記号。 「これ……ただの予備じゃない」 僕の声が自然に低くなる。 「旧道っぽい」 先輩が唇を結ぶ。 「しかも、崩れた場所を避けてる」 図の端には、山小屋の裏へ向かう印も見えた。そこへ行けば何かがある、と言われているみたいで、背中がぞわりとした。 「誰かが、ここを見せたくなかったんじゃなくて……」 「逆だ」 先輩が僕の言葉を引き取る。 「見せるために、隠した」 僕は地図の折り目を追った。事故の痕跡、古い記録、遭難者のメモ。ばらばらだったものが、この一枚に引き寄せられていく気がする。 「これで終わりじゃないよな」 「終わりなら、梁の中なんかに入れない」 先輩はそう言って、紙をそっと指で押さえた。外の風が一度強くなり、窓枠が小さく震える。 「明かり、消すなよ」 「うん」 僕はうなずいた。まだ全ては見えていない。でも、隠された地図はたしかに手の中にあって、次に何を示すのかを、静かに待っているようだった。

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