エラベノベル堂

吹雪の山小屋、告白は暁に溶ける

全年齢

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6章 / 全10

野添の告白のあと、誰もすぐには言葉を継げなかった。風の唸りが小屋の隙間を満たし、その合間に北側の壁を擦る乾いた音だけが、急かすように繰り返された。 真白は記録ノートと古地図を並べ、床に膝をついた。丸印は二つある。ひとつは小屋の裏手、もうひとつは少し下った斜面の曲がり角だ。赤い金属板があるなら、わざわざ二か所に印をつける理由がある。目印そのものと、そこへ行くべきでない地点。そう考えた瞬間、真白は小屋に入ってからの細部を思い返した。 裏口脇で見つかったランタンは芯が抜かれていた。だが芯は捨てられていなかった。市原が見つけた木箱の上、濡れないよう逆さにした缶の中にしまわれていた。隠したいならもっと遠くへやれる。つまり野添は、朝になれば戻して使える形にしていた。北側へ出るのを止めたかったのは夜だけだ。 さらに計画書の上書きも、宿泊地の欄しか触られていない。行程全体を変えれば不自然さが目立つからではない。むしろ、小屋に来さえすれば十分だったからだ。ここで記録に触れ、倉橋に語らせる。それが第一の目的だった。 「赤い板を見つけて終わりじゃないんだ」 真白は顔を上げた。 「野添さんは真実を知らせたかった。でも同時に、昔の失敗が今も危険として残ってることも伝えたかったんですよね」 野添はこくりとうなずいた。 「祖父は、板の先の雪の下に古い固定ロープが残っているかもしれないと言ってました。撤退のとき置いてきてしまったって。傷んでいても、見えれば誰かが頼る。だから近づいてほしくなかった」 倉橋の顔色が変わる。蓮見も息を呑んだ。使われなくなった巻き道に、古い残置物がある。記録が消されていれば、危険の共有もされない。真白はようやく、この騒動の歪な形を理解した。野添は過去を暴きたいのではなく、過去が黙ったまま次の事故を呼ぶことを恐れていたのだ。 「私が話すべきだった」 倉橋が低く言う。 「記録を伏せた時点で、山の情報まで私物にしてしまった」 紺野は反論しなかった。怒りはまだ消えていないはずなのに、その矛先が定まらない顔をしていた。由良は毛布を握ったまま、小さく息を吐く。相沢が視線を落とし、市原が野添の肩に手を置いた。 そのとき、外の擦過音がひときわ強く鳴り、北側の壁からぱらぱらと細かな雪が落ちた。真白は立ち上がる。風で揺れた枝ではない。何か硬いものが、吹きだまりに押されて壁へ当たっている音だ。 「赤い板かもしれない」 真白は言った。 「雪で外れて、ここまで流されてる」 朝まで外へ出られない。それでも全員の視線は、同じ方向へ向いた。小屋の内側に積もっていた十年分の沈黙が、吹雪の向こうで形を持ち始めている。真白は確信した。夜が明ければ、隠されていたのは誰か一人の罪ではなく、善意のつもりで閉ざされた危険そのものだと、皆の前で示せる。長い告白は、もう後戻りできないところまで来ていた。

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