エラベノベル堂

吹雪の山小屋、告白は暁に溶ける

全年齢

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8章 / 全10

先輩が地図を押さえたまま黙り込むと、談話室の空気はまた一段、薄くなった気がした。 「副部長、話せるだろ」 顧問が静かに言う。呼ばれた副部長は、椅子に座ったまま両手を膝の上で握りしめていた。さっきまで平気な顔で茶を配っていたのに、今はその指先だけが妙に白い。 「……俺が、隠した」 「何を」 「地図の切れ端だ。梁に入れたのも、食糧庫の印を見て黙ってたのも」 誰もすぐには返せなかった。副部長は一度だけ息を吸い、視線を床へ落とす。 「昔、この山で遭難があった。記録が残ってるのを知ってたのに、部外者が古い道へ近づくのを見たくなかった。だから、見つけたものを集めて、触れられない場所に隠した」 「部外者って、俺たちのことかよ」 後輩が小さく言う。 「そうだ。いや……最初は、そう思った」 副部長の声がかすれる。 「けど、足跡を見た時点で気づいたんだ。俺が守りたかったのは、誰かを締め出すことじゃなかった。ただ、同じ場所で誰かがまた消えるのが怖かっただけだ」 先輩が眉をひそめる。 「じゃあ、記録を作ったのは誰だ」 その問いに、副部長は口を閉ざした。しばらくの沈黙のあと、彼は首を横に振る。 「そこまでは言えない。いや、言わない方がいいのかもしれない」 「どういうこと」 「俺も、全部を知ってるわけじゃないんだ」 顧問が眼鏡を押し上げる音だけが、小屋の中に小さく響いた。 「つまり、地図を隠した理由は分かった。だが、その記録の作成者は伏せたままか」 「……ああ」 副部長はゆっくりうなずいた。 「記録を書いたのが誰か。そこだけは、まだ言えない」 僕は手の中の地図を見た。旧道、崩落地点、小屋裏の岩壁。その線はたしかに何かを守ろうとしていた。でも、守り手はひとりじゃないのかもしれない。 「じゃあ、まだ核心は残ってるってことだな」 先輩が低く言う。 副部長は返事をしなかった。ただ、窓の外でうなる風へ耳を澄ませるように、うつむいたまま唇を引き結ぶ。 誰がこの紙を作り、誰がここまで隠したのか。その答えだけが、談話室の真ん中にぽっかり穴を開けたまま残っている。

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