エラベノベル堂

緞帳の向こう、翠の喝采

全年齢

小説ID: cmnei60wd000501rvhx29hq9k

4章 / 全10

昼休みのざわめきが、校庭の端からやわらかく流れ込んでいた。中庭のベンチに腰を下ろした優希は、膝の上の小さな再生機を指で軽く叩く。 「よし、今度は演出つき。これで隊列がきれいに出れば、文化祭でもいける」 瑠菜は隣で容器のふたを慎重に外し、青と緑の試作品を一体ずつ、ベンチの背に置いた薄い板の上へ移した。 「きれいに、ね。まずは暴れないこと」 「そこはもう確認済みだろ」 「優希の確認済みは、たまに信用できないのよ」 「ひどい」 軽快な拍子が流れた瞬間、小さな体たちはぴたりと反応した。青が一歩先に出て、緑が半拍遅れて続く。桃色はふわりと弧を描き、金色は少しだけ遅れても、最後には全員の列に収まった。 優希は思わず身を乗り出す。 「見ろよ。音に合わせて、ちゃんと隊列になる」 「うん……これは、思ったよりきれい」 瑠菜の声が、ほんの少しだけ弾んだ。小さな行進は、ベンチの上で波のように揺れながら、狭い場所でも不思議とまとまりを見せる。見ているだけで、手応えが胸の奥に積み上がっていく。 「これなら展示で、みんな笑うかも」 「笑うだけじゃなくて、触りたくなるかもね」 「だろ? やっぱり題名の勝ちだ」 そのとき、瑠菜がふと視線を上げた。 「……来た」 近くを通りかかった一人の生徒が、面白そうに立ち止まる。観客役、というには自然すぎるほど自然な足取りで、列の動きをのぞき込み、次の瞬間、ぱん、と明るい拍手をした。 優希が「あ」と声を漏らすより早く、スライムたちは一斉に跳ねた。 拍手の音そのものに反応したらしい。隊列は崩れるどころか、むしろ勢いを増して空中へ弾み、ベンチの上で小さな花火みたいにぱっと広がる。 「え、そこまで拾うのか!?」 「拍手にまで乗ってる……!」 瑠菜は慌てて手を伸ばしたが、止めるより先に、生徒の笑い声が中庭へ弾けた。 「すご、かわいい!」 その一言が引き金になったみたいに、周囲の空気まで明るくなる。スライムたちは拍手の余韻に合わせるように、ぴょん、ぴょん、と軽やかに跳ねた。 優希は頭を抱えかけて、それでも吹き出した。 「やばい、想定外に盛り上がってる」 「盛り上がりすぎでしょ……でも」 瑠菜も、困ったように眉を寄せながら笑っていた。 「これは、見てる人が楽しくなるのは確かかも」 ベンチの上では、小さな隊列がもう一度形を整え、拍手の残響に合わせて、まるで観客に応えるみたいに弾んでいた。

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