エラベノベル堂

緞帳の向こう、翠の喝采

全年齢

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6章 / 全10

扉が開いた瞬間、室内の空気が一段明るくなった気がした。文化祭初日の特設展示室は、朝からもう人の熱で満ちている。優希は受付の札を首に下げたまま、入口の向こうでざわめく来場者の列を見て、思わず口元を引きつらせた。 「おいおい、こんなに来るのかよ」 「題名が強いんでしょ」 瑠菜が横で小さく息をのむ。 「スライム行進曲って、呼ぶだけで楽しそうだもの」 展示台の上では、色とりどりの小さなスライムたちが、開場を待っていたときよりもずっと落ち着かない様子で揺れている。足音が近づくたび、机の脚を伝う震えに合わせて、ぴくり、ぴくりと身を起こした。 「まずいな。音響、客の足音まで拾ってる」 優希が再生機の表示を見下ろすと、瑠菜がすぐに頷いた。 「でも、止めるだけじゃ、もう空気ができてる」 その言葉の通りだった。見物客が一人、二人と近づくたび、青い個体が先頭に立ち、緑がその後ろに続く。まるで歓迎の行進みたいに、隊列が展示室の出口へ向かって伸び始めた。 「待て待て、そっちは出入口だ!」 優希が身を乗り出すと、列の先頭がぴょんと跳ね、まるで返事をするみたいに向きをそろえた。周囲からは、驚きと歓声が入り混じった笑い声が上がる。 「かわいい!」 「動いたぞ、今の見たか?」 拍手が起きる。その音で、後続のスライムまで嬉しそうに弾み、列はますます勢いを増した。 瑠菜が顔をこわばらせる。 「優希、これ、止める?」 「……いや」 言いかけて、優希は歯を食いしばった。止めれば混乱は収まるかもしれない。だが、ここで無理に遮れば、せっかく集まった楽しさまで壊してしまう気がした。 「進めるべきか、止めるべきか……」 自分の声が、やけに狭い展示室に響く。運営係としての顔が、創り手としての顔とぶつかっていた。 そのとき、先頭の一体が、出口の手前で軽く跳ねてから、くるりと振り返った。まるで次の指示を待っているように、細かな震えで列を整える。 瑠菜が、その動きを見て目を細めた。 「ねえ、これ……ただ暴れてるんじゃない」 優希は息を止めたまま、頷いた。 「分かってる。向かいたい先があるんだ」 展示室の外へ伸びかけた小さな行進は、誰も追いつけないほど早くはない。ただ、確実に前へ進もうとしている。優希は受付札の紐を握りしめ、次の判断を探すように、揺れる列を見つめ続けた。

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