エラベノベル堂

緞帳の向こう、翠の喝采

全年齢

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7章 / 全10

「優希、見て。音じゃない」 瑠菜の声は、展示室のざわめきに埋もれそうなくらい低かった。けれど、その一言だけで、優希の背筋がぴんと伸びる。 「え?」 「拍手のあと、みんな笑ったでしょう。あれで、列が一段そろった。音そのものより、楽しそうだって空気に反応してる」 優希は校舎二階の廊下へ流れ出た青い列を見た。曲の拍に合わせて右へ左へと曲がるたび、見物客の笑い声がふわっと追いかける。そのたびに、スライムたちはさらに弾んだ。まるで笑いを食べて大きくなるみたいに。 「楽しさの連鎖、ってことか……」 「止めるだけだと逆効果になる。怖がらせたら、もっと跳ねる」 瑠菜は廊下の壁に手をつき、列の先頭をじっと見た。さっきまで冷静に見えていた瞳が、今ははっきり焦っている。 「音を切れば静かになると思ったけど、違う。これは、見てる人の反応まで巻き込んでる」 「じゃあ、どうする」 優希が問いかけると、瑠菜は一瞬だけ唇を結んだ。 「楽しさを消すんじゃなくて、向きを変える」 「向きを変える?」 「そう。止めるのではなく、別の楽しい先を作る。今の列は、追いかけられるほど勢いづく。なら、追わせるより、自然に行き先を作るしかない」 優希は息をのんだ。廊下の向こうで、生徒たちが肩を寄せ合って笑っている。その空気すら、スライムには拍手の延長に見えているのかもしれない。 「でも、そんな都合よく……」 「都合よく、じゃない」 瑠菜はきっぱり言った。 「今のままじゃ、止めようとする人が増えるほど、みんなの興奮も増える。だったら、怖がらせる役をやめる。代わりに、安心して見送れる形に変える」 優希は廊下の端で跳ねる一体を見た。先頭は、まるで次の合図を待つみたいに小さく揺れている。 「楽しさの連鎖、か……。そんなの、面倒くさいのに、ちょっとわくわくするな」 「でしょ」 瑠菜が短く笑う。その笑みは不安の中で見つけた、ほんの細い光みたいだった。 「優希。止めるのは、今じゃない。止めるとしたら、みんなが安心して笑える場所に、ちゃんと受け止めたあと」 優希は列の流れを追い、喉の奥で小さく息を吐いた。 「……分かった。なら、次の手を考える」 廊下では、青と緑の小さな波が右へ左へと揺れ続ける。笑い声はまだ消えず、むしろ新しい拍のように、列の背中を押していた。瑠菜はその流れを見届けながら、もう一度だけ深くうなずいた。

7章 / 全10

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