エラベノベル堂

記憶市場の果て、初恋は真実を灯す

全年齢

小説ID: cmneis3yh000k01n31tqmxv1t

2章 / 全10

ユウトは端末を閉じきれず、広場の人波の中で立ち尽くした。白い建物の輪郭は、記憶の裏側に沈んだまま離れない。夜になっても映像の端にちらつく制服の肩章や、無人の机の列が脳裏を離れなかった。リナの笑顔だけが柔らかく、そこに混じる異物だけが鋭かった。 翌日、彼は市場の裏にある古い記録屋を訪れた。棚には買い手のつかない断片が埃をかぶって並び、店主は内容を聞くなり顔を曇らせた。あの標語は、昔の式典でよく流れた。記憶を手放すことは自由だと、誰もが信じるように。だが自由という言葉の裏に、選ばせるふりをした管理があることを、知る者は少ない。店主はそう言って、端末に古い図版を投げた。 そこには、治療支援制度の流れが図式化されていた。申請、審査、供給、回収。病院と市場を結ぶ細い線の先に、国家研究機関の名がある。ユウトの指先が冷えた。母の薬代を補うはずの支援が、別の誰かの記憶を集める仕組みと重なっている。偶然で片づけるには、線があまりにもきれいだった。 家に戻ると、母は眠っていた。細くなった呼吸を見ながら、ユウトは自分が何を売ってきたのかを数えようとしてやめた。数えられるほど、残っていない気がしたからだ。それでも初恋の記憶だけは異様に鮮明で、リナの横顔に浮かぶ影の位置まで思い出せる。彼女は本当にただの同級生だったのか。なぜ映像に、あの白い建物が差し込むのか。 その夜、端末に一件の短い通知が届いた。保存期限切れの再生補助。送信元不明。開くと、映像の中でリナがこちらを見ていた。いや、正確には、ユウトのほうを見ていた。彼女の唇がかすかに動き、音声はないのに、確かに言葉だけが胸へ落ちた。見つけて。ユウトは息を止めた。記憶の奥で眠っていたはずの初恋が、ただの思い出ではなく、誰かが残した合図だったと知った瞬間、部屋の静けさがまるで別の顔を見せた。

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