新は電車を降りたあと、章吾の背を見失わないように、商店街の通りへ足を早めた。夕方の光は看板の縁を薄く染め、閉めかけの店が並ぶ通りに、少しだけ昔の温度を残している。 「ここ、でしたよね」 隣を歩く先輩が、紙片をのぞき込む。新はうなずいた。 「ええ。商店街の先に、昔の映画館があったはずです」 古い記録と写真を照らし合わせるうちに、章吾が確かめようとしていた場所のひとつが、いまは空き地になっているとわかった。人の流れが途切れた角を抜けると、そこだけがぽっかりと広い。 「ここか……」 新は立ち止まった。看板も壁もなく、風がそのまま地面をなでていく。だが何もないのに、完全に空っぽという感じもしなかった。 そのとき、近くの店先から年配の店主が顔を出した。 「電車の音が、ここらの時間を決めてたんだよ」 新が振り向くと、店主は笑い皺を深くした。 「正午なら仕込み、夕方なら片付け。あの音がしたら、みんなが少しだけ急いだ。映画館に入る人も、買い物を終える人もね」 先輩が腕を組む。 「今でも、耳が覚えてるんですね」 「忘れたつもりでもね。体が先に思い出すんだ」 新は空き地を見つめた。見えないはずの客席や発券口よりも、そこに集まっていた人の呼吸のほうが鮮やかに浮かぶ。章吾はただ昔を懐かしんでいるのではない。もっと広いものを追っている気がした。 「……個人的な思い出だけじゃない」 新の言葉に、先輩が横目を向ける。 「どういう意味だ」 「町そのものを、確かめてるんだと思います。あの人は、電車の景色じゃなくて、電車でつながってた時間を見てる」 店主は少し黙り、それから空き地の先に目を細めた。 「そうかもしれないねえ。あの頃は、電車が来るたびに商店街が息をしてた。誰かの用事も、立ち話も、みんなあの音で動いたから」 新は紙片を握りしめた。そこに書かれた場所は、ただの記号じゃない。町の輪郭をなぞるための印だ。章吾が何を確かめ、何を残そうとしているのか、輪郭だけは少し見えた気がした。 「新」 先輩に呼ばれて顔を上げると、夕焼けの奥で、商店街の端から次の便の気配がかすかに響いたように聞こえた。新は息をのみ、その音の余韻を追うように空き地を見つめ続けた。
終点の先、町は記憶を連れて
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