エラベノベル堂

終点の先、町は記憶を連れて

全年齢

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7章 / 全10

試乗線の車内は、展示会の熱気をそのまま連れてきたみたいに落ち着かなかった。だが新は、扉が閉まる音を聞いた瞬間、背筋を伸ばした。ここからは客ではなく、運転士としてこの短い旅を守る。そう思うと、手のひらに残る汗さえ不思議と頼もしく感じる。 「発車します」 声をかけると、前方の窓の向こうで子どもが手を振った。沿線の店主も、買い物袋を提げたまま笑っている。新はゆっくり加速をかけた。車輪が線路を撫でるたび、町の空気が車内へ流れ込んでくる。いつもの定期便より短いはずなのに、景色の一つひとつがやけに濃い。 「いいねえ、ちゃんと走ってる」 誰かがそんなことを言い、別の誰かが笑う。新は少しだけ肩の力を抜いた。章吾はいつもの席に座り、窓の外を見ている。その横顔は、今日だけはどこか誇らしげだった。 ところが、次の停留場を抜けたあたりで、車内に乾いた警報音が割り込んだ。甲高い響きが、さっきまでの和やかさを一瞬で切り裂く。 「えっ」 「止まるのか」 乗客たちの声が重なる。新はすぐに操作盤へ視線を落とし、表示を確認した。古い警報装置が、どうやら誤って反応したらしい。異常はない。だが、停止の判断を遅らせるわけにはいかない。 「ただいま確認します。少しお待ちください」 できるだけ落ち着いた声を出しながら、新は電車を静かに止めた。車内の空気が、じわりと不安に傾くのがわかる。子どもたちはきょろきょろと周囲を見回し、店主たちは顔を見合わせた。 「大丈夫なのかい」 「壊れたの?」 ざわめきが広がる中、先ほどまで笑っていた人々の表情から、少しずつ期待が抜けていく。新は唇を噛んだ。たったこれだけで、せっかく集まった気持ちが揺らぐのか。 そのとき、後ろの席から静かな声がした。 「まだ走れる」 章吾だった。大きな声ではないのに、不思議と車内にすっと届く。 誰もがその言葉を反芻するみたいに黙る。章吾は窓の外を見たまま、もう一度だけ繰り返した。 「まだ走れる」 新は振り返れなかった。ただ、その短い言葉が胸の奥に落ちるのを感じた。止まったのは電車だけじゃない。不安も、諦めも、全部いまここで試されている。 「はい」 新は小さく答え、操作盤に手を戻した。警報の赤い光の向こうで、町の人たちが息を呑んで待っている。新は深く息を吸い、次に何を確かめるべきかを見極めようとした。

7章 / 全10

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