エラベノベル堂

火星の癖、嵐の証言

全年齢

小説ID: cmnenaun5004d01n38keanl49

4章 / 全10

管理通路の照明は、基地の夕方をそのまま閉じ込めたみたいに鈍く光っていた。朝比奈新は端末を握ったまま、壁際に立ち止まる。さっきまで共有できていた監視画面が、いまは灰色の停止表示に変わっていた。 『観測結果に異常は認められない。よって追加調査は不要。以後、当該案件への関与を禁ずる』 送られてきた説明文は、冷たく整いすぎていた。 「ふざけるな……」 口にした瞬間、自分の声が通路に吸われる。誤差だと言い切るには、砂塵の偏りがあまりに揃いすぎている。新は端末を睨みつけたまま、強く画面を叩いた。 「これで終わりのつもりかよ」 返事はない。むしろ、権限の解除通知だけが追い打ちのように積み重なっていく。監視系の閲覧も、蓄積データへのアクセスも、次々に閉じられていった。 そのうえで、蒼依からの共有枠も切れた。 『別行動になる。今は動かないで』 短い文面が、かえって状況の深さを際立たせる。 「勝手に決めるなよ……」 新は返そうとして、やめた。今送れば、感情だけをぶつけることになる。だが、胸の奥で何かが静かに反転した。止められたから終わりなのではない。止められたからこそ、余計に見えるものがある。 彼は通路の端に身を寄せ、壁面に流れる空調の表示を見上げた。空気の流れは一定に見える。だが、そこに混じる負荷の数値が、ひとつだけ不自然に跳ねている。制御装置の冷却負荷が上がるたび、基地の外壁を伝う砂の動きがわずかに変わる。記録を追い出されても、その結びつきだけは目の前に残っていた。 「……そういうことか」 砂嵐は暴れているんじゃない。冷え切らない装置が、無理に均衡を保とうとするたび、空が応じている。 新は唇を噛み、端末のメモ欄に短く打ち込んだ。 砂嵐の動きと冷却負荷が連動 たったそれだけの文字列が、暗い通路でやけに重い。 「観測誤差なんかじゃない」 誰に向けた言葉でもないのに、声にした瞬間、胸のざらつきが少しだけ輪郭を持った。孤立している。けれど、孤立したからこそ、見える。 新は監視端末の黒い画面を見つめたまま、次に確かめるべきものを静かに思い描いた。

4章 / 全10

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