エラベノベル堂

雨籠りの画布、失踪は暁へ

全年齢

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4章 / 全10

蓮は資料室の灯りの下で、久世志朗の残した断片をつなぎ合わせていった。台帳にない一枚、削り取られた欄、額裏に貼られた紙片。それらは偶然ではなく、長い年月をかけて隠すための工夫だった。だが隠した者の痕跡は、消すつもりだった情報よりも雄弁だった。 椎名は古写真を広げ、静かに指で人物の輪郭をなぞった。画家の隣にいた女性は、創設者一族の出自を知る者だったという。彼女は財産の流れを記した帳面を見つけ、志朗に託した。志朗はそれを絵の構図に溶かし込んだが、完成直前に一族の手で封じられた。彼女は失踪したのではなく、証拠を外へ運ぶ途中で姿を消したのだと、椎名は言った。 蓮は展示室へ戻り、夜ごと位置を変えていた人物画を見上げた。今夜の変化は、まるで誰かが最後の頁をめくるように穏やかだった。椅子に座る男の視線が、窓辺の女性へ移り、その女性の手元に小さな封筒が現れる。そこに描かれた形は、盗まれた風景画の裏にあった印と重なっていた。盗難に見えた事件は、実は封を切る鍵を探すための騒ぎだったのだと、蓮はようやく飲み込んだ。 そのとき、館長が無言で展示室に入ってきた。顔からは血の気が引いていたが、手には古びた鍵があった。彼は自分の祖母が百年前の一族に仕え、封印の場所を代々守るよう命じられていたと告白した。だが守る理由は、真実を隠すためではない。真実が暴かれたとき、誰かが傷つくのを恐れていたからだという。 蓮は鍵を受け取り、壁龕の奥を開いた。そこには手紙と、画家の署名が入った薄い帳面が収められていた。手紙には、女性が自ら名を明かし、財産の不正を告発しようとしていたこと、志朗が彼女を逃がしたことが記されていた。失踪の記録は、消えたのではなく、守られた結果だった。 夜明け前、蓮は盗まれた風景画を保管室から見つけ出した。額の裏には、最後の一行が隠されていた。真実は一度失われたように見えても、受け取る者がいれば終わらない。窓の外で雨が弱まり、山の稜線が薄く現れる。展示室を振り返ると、絵の中の人物たちはもう動いていなかった。だが蓮には、彼らが静かにこちらを見送っている気がした。

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