エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

小説ID: cmnenb7oo004j01n34751brjz

3章 / 全10

相良は翌日から、ヴェリタスの判定を支える運用資料の断片を集め始めた。公開されている説明文では、証言の整合性、感情の揺れ、時系列の自然さが評価対象だとされていた。だが実際の判定ログを並べると、同じ条件でも評価が妙に跳ねる瞬間がある。相良はそこに、人間の感覚ではなく、過去の採用例に引きずられた癖を見た。まるで、よく似た衣を着た言葉だけが、最初から通行証を持っているようだった。会議でそれを示すと、席の空気はすぐに冷えた。そんな細部に意味はない。先輩弁護士はそう切り捨てたが、相良は目を逸らさなかった。細部こそが、機械の習慣を暴く。彼は類似事件の記録へ潜り込み、判定が高かった証言を一つずつ読み比べた。すると、どれも被害の輪郭が明瞭で、証言者が迷いを言葉の端に残さない。さらに、質問の順番まで似ていた。答えを導くように並べられた前置きが、静かに評価を押し上げていたのだ。相良は背筋に薄い汗がにじむのを感じた。ヴェリタスは真実を掘り当てているのではない。真実らしさが最も育ちやすい温室を、制度の側が先に用意していたのだ。法務省の担当記録を追うと、制度導入当初に異例の修正が重ねられていた痕跡も見つかった。公表された基準にはない調整が、運用の奥でひそかに積まれている。そこには過去の誤判を恐れる行政の焦りと、判定の成功率を守りたい企業の思惑が絡んでいた。相良はようやく理解した。問題の証言が強く見えたのは、証言者の語りが巧みだったからだけではない。AIが高く評価しやすい流れへ、周囲が無意識に寄り添っていたのだ。法廷で真っすぐに見えるものほど、誰かが角を磨いている。相良は資料を閉じ、控室の窓に映る自分を見た。次の弁論で争うべき相手は、証人だけではない。証言を真実へ変える装置そのものだ。彼は静かに息を吸った。見抜くべきものは、事実ではなく、事実を信じ込ませる仕掛けだった。

3章 / 全10

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