エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

小説ID: cmnenb7oo004j01n34751brjz

4章 / 全10

相良は夜の事務所で、最後の資料を読み返していた。机に並ぶのは証人の発言履歴、法廷記録、そしてヴェリタスの判定ログ。どれも別々のはずなのに、並べるほど同じ癖が浮かび上がる。証言者は何度も言い直しながらも、要所だけは不自然なほど整っていた。しかも、その整い方は偶然ではない。質問の順序、誘導するような前置き、確認の言葉の置き方まで、判定の高い証言には共通点があった。 相良はそこで初めて、証言の中身よりも、証言が置かれた環境のほうが重要だと気づく。ヴェリタスは人間のように迷わない。だが迷いの少ない言葉を、なぜか過剰に信じる。そこに制度の盲点があった。公表された基準は正しく見える。けれど、運用の奥では、導入を急いだ関係機関が調整を重ね、都合の悪い揺らぎを見えにくくしていた。真実を測るはずの秤が、いつのまにか真実らしさだけを量る箱へ変わっていたのだ。 相良は椅子から立ち上がり、窓の外に広がる都市の明かりを見た。高層ビルの輪郭が雨上がりの空に滲み、どれも同じ色で眠っている。その静けさが、かえって不気味だった。人は確信を欲しがる。機械が与える確信なら、なおさらだ。だが今回の証言には、あまりに滑らかすぎる継ぎ目があった。そこへ人間の思い込みが重なり、誰も疑わないまま、答えだけが先に独り歩きしていた。 翌日の法廷で、相良はその継ぎ目を指摘するつもりだった。証人の細部に残る揺れ、類似事件に潜む偏り、そしてヴェリタスの判定が高まる条件の共通性。一本ずつは細い糸でも、束ねれば結論を支える支柱を揺らせる。相良は資料を閉じ、深く息を吐いた。真実は、最初から光っているものではない。疑いを重ねた先でようやく輪郭を持つ。彼はその輪郭を、法廷の中央へ引きずり出す覚悟を決めた。

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