エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

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4章 / 全10

夕方の街は、昼の熱をまだ少しだけ路地に残していた。看板の明かりが点き始めた細い通りの奥で、蓮真人は古びたシャッターの前に立ち、地図アプリを閉じた。 「ここで合ってるのか……」 「合ってます。看板、ほとんど死んでますけど」 少し遅れて来た葵咲が、息を整えながら隣に並ぶ。真人は店先の札を見た。個人データ保管店舗。証人の生活履歴を追うために辿り着いた先は、紙の倉庫みたいに静かな場所だった。 中に入ると、空気はひどく乾いていた。棚に並ぶ端末や記録媒体の群れの向こうで、店主らしい男が顔を上げる。 「何をお探しで」 「古い映像データです。特定の人物の生活履歴に紐づくものを」 真人が事件番号を示すと、男は一瞬だけ目を細めた。 「うちには正規の委託品しかありませんよ」 「正規かどうかを確認したいんです」 言葉を重ねても、店主の口は固かった。棚を案内する足取りも、必要以上にゆっくりしている。真人はその視線の泳ぎ方に、昼の資料室で見つけた違和感とは別の匂いを感じた。 「先生、これ」 葵咲が低く呼ぶ。端末のひとつに残った閲覧履歴を指で示していた。画面の隅に映る古い映像の断片は、何度も読み込まれた痕跡があった。しかも、その切り替わりが不自然に滑らかだ。つなぎ目を隠すために、少しだけ余計な流れが差し込まれている。 真人は息を止めた。 「編集されてる……いや、編集した痕跡を消そうとして、逆に残してる」 「しかも一箇所じゃないです」 葵咲の指が素早く動く。彼女の端末が小さく震え、持ち込んだ解析ツールが記録の詳細情報を拾い始めた。 「出所、絞れます。ほら、同じ署名の断片が繰り返されてる」 「署名?」 「匿名アカウントです。隠してるつもりでも、癖が残ってる」 店主の喉がわずかに鳴った。真人は振り返る。 「この映像、誰が持ち込んだんです」 「さあね。うちは預かるだけだ」 「預かるだけで、こんなふうに履歴をいじるんですか」 男は答えなかった。沈黙は、否定より雄弁だった。 葵咲が端末を見つめたまま言う。 「先生、これなら追えます。出所は一つです。たぶん、ここから先も同じ癖で辿れる」 真人は映像の揺らぎを見た。証言そのものではなく、証言を支えるはずの古い記録が、誰かの手で静かに整えられている。その手つきは乱暴ではない。だからこそ、余計に恐ろしい。 「……ありがとう」 真人は低く言った。 店主は視線を逸らし、奥の棚へと顔を向けたまま動かない。店内の機械音だけが小さく鳴り、葵咲の端末には匿名の痕跡が淡く積み上がっていく。 真人はその画面を見下ろしながら、次に何を確かめるべきかを胸の内で組み立てた。

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