エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

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6章 / 全10

法廷の中央で、相良は深く息を吸った。ヴェリタスの表示は冷たく、過去の判定に裏打ちされた確信だけを並べているように見えた。だが彼の前にあるのは、証言の正否を争う単純な図式ではない。問題は、証言がどのように真実らしく育てられたかだった。 相良はまず、証人の発言の細部を順に追った。場所の説明は整いすぎているのに、移動の経路だけが妙に滑らかだった。次に、聴取時の質問順を示すと、回答の呼吸が一定の型に沿っていることが分かる。前置き、確認、言い換え。その一つひとつが、人間には丁寧さに見え、機械には信頼の積層として映る。証言は自然な輪郭を持つよう整えられていたが、その自然さこそが、あらかじめ磨かれた表面だった。 さらに相良は、法務省と開発企業の運用記録を提示した。制度導入を急いだことで、判定の揺れを嫌う調整が重ねられ、公表されない補正が評価基準の周辺に染み込んでいたこと。ヴェリタスは事実そのものを見抜くのではなく、特定の言い回しや証言の流れを過剰に信頼しやすい構造を抱えていたこと。しかも、その癖は過去の成功例を守りたい組織の思惑と結びつき、都合の悪い揺らぎを見えない場所へ押しやっていた。 傍聴席の空気が変わる。相良は最後に、証言の再現映像を止めた。そこに映っていたのは証言者ではない。隣で記録を促していた職員の、わずかな頷きだった。あの頷きが、次の言葉を導き、導かれた言葉がヴェリタスに高く評価される。それは偶然ではなく、真実らしさを積み上げるための小さな連鎖だった。誰も嘘を告げてはいない。ただ、真実へ続く坂道だけが、いつの間にか上りやすい角度に整えられていた。 沈黙ののち、裁判長が記録の再検討を命じた。ヴェリタスの表示は消えない。だが、その光はもう絶対ではなかった。相良は法廷の中央で、ようやく勝ったのだと知る。けれど次の瞬間、控え室から届いた新たな通知に目を留める。再審理の対象は、この事件だけではない。同じ型の証言が使われた過去の案件まで、一斉に洗い直されるという。 真実を暴いたと思った手のひらの中で、もっと大きな制度の扉が音もなく開いていく。相良はその知らせを見つめたまま、背筋に冷たいものが走るのを感じた。これは終わりではない。むしろ、誰が真実を選び、誰が真実を整えてきたのかを問う、本当の始まりだった。

6章 / 全10

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