エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

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7章 / 全10

法廷の再開を告げる鐘のような通知音が、控え室の静けさを裂いた。相良が端末を開くと、再審理の対象一覧が次々に展開される。彼の担当事件だけではない。類似の供述形式を含む過去案件が、まとめて洗い直されることになっていた。胸の奥が冷える。勝ったはずなのに、勝利の輪郭はまだ不安定だった。 裁判長の前で相良は、今度こそ確信ではなく構造を語った。ヴェリタスが見ていたのは事実そのものではない。事実らしさを強める並び方だった。前置きが重なり、確認が挟まれ、揺れが削られた証言ほど高く評価される。そこへ制度を急いだ関係機関の思惑が重なり、補正の癖は公表されないまま温存された。真実は記録の中にあるのではなく、真実を信じやすい形へ整えられたあとに、初めて真実として扱われていたのだ。 傍聴席の誰かが息を呑む音がした。相良は最後に、証人席の横に立つ補助記録係を指した。再現映像の中で、その職員は証言のたびに、ほんのわずかにうなずいていた。言葉を導くには十分な、けれど証拠としては見過ごされやすい癖だった。人は安心できる方向へ話を寄せる。機械はその安心を信頼として拾う。二つが噛み合ったとき、真実らしさはあまりにも滑らかに育ってしまう。 裁判長は長く沈黙し、やがて記録の再精査を命じた。ヴェリタスの判定は補助資料に格下げされ、独立した証拠とは扱われなくなった。法廷の空気がほどけていく中、相良は勝ったのではなく、信じすぎる仕組みをひとつ外したのだと理解した。 数日後、事務所に戻った彼の机には、見覚えのない封筒が置かれていた。差出人はない。中身は、手書きの短い一文だけだった。お前が見つけた偏りは、最初から必要だった。 相良は紙を握りしめたまま、窓の外を見た。都市の明かりは昨夜と変わらず整っている。だが、そのどこかで、自分の指摘を待っていた誰かがいたのかもしれない。真実を暴いたと思った瞬間、さらに大きな意図の影が現れる。彼は初めて、法廷の外にももうひとつの判定者がいるのだと知った。

7章 / 全10

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