エラベノベル堂

真実は、判決の外で揺れる

全年齢

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7章 / 全10

面談室は、外の喧騒が嘘みたいに静かだった。薄い壁の向こうで空調が低く鳴り、机の上の紙コップだけがやけに白い。蓮真人が椅子に腰を下ろすと、向かいの証人は肩をすくめたまま、手元の水を見つめていた。 「来てくれてありがとうございます」 「……顔を出しただけです。名前も、ここでは要らないんでしょう」 「ええ。匿名なのは、あなたを守るためです」 その言葉に、証人は苦く笑った。 「守る、か。そう言われると少しはまともに聞こえますね」 真人は机に置いたメモを伏せた。問いは一つずつ、慎重に置く必要がある。今までの証言が、ただ記憶の揺れでは片づかないなら、そこにあるのは誰かの手つきだ。 「法廷の外で、言い方を繰り返すように求められたことはありますか」 証人の指が、紙コップの縁を軽く押した。 「あります」 短い返答だった。だが、その一言で部屋の空気が変わる。 「何を、です」 「同じ言葉です。何度も。聞かれたらこう答えろって。間違えたら、ちゃんと伝わらないって」 真人は息を止めた。 「誰がそんなことを」 「声は覚えてません。顔も、たぶん見てない。けど、言い直すたびに、正解が近づくみたいな気がしたんです。私の言葉じゃないのに、口が勝手に馴染んでいく感じで」 葵咲が隣で小さく身じろぎした。 「それで、AIは……」 「ええ」 真人が先を取る。 「自然だと判断した」 証人は頷いた。 「そうです。最初は私も、うまく話せたんだと思ってました。でも、あとから思い返すと、あれは思い出したんじゃなくて、合わせていっただけでした」 真人の胸の内で、点と点が一本の線になる。証言の真偽判定は、言葉の流れに整合性を見たのだろう。だがその流れ自体が、法廷の外で静かに作られていたなら、判定は真実に届かない。 「つまり、AIが真実だと拾った証言は、あなた自身の自然な供述ではなく、誘導の結果だった」 「……そうなります」 その肯定は、重かった。 真人は机の上のメモを握りしめる。横領事件として始まったはずの話が、いつの間にか証言そのものを作り変える仕組みへと変わっている。 「これはもう、単なる横領じゃない」 「ええ」 証人は目を伏せたまま言う。 「私も、そう思います。誰かが、私の言葉を先に決めていました」 真人は頷くしかなかった。面談室の静けさの中で、その事実だけが、冷たくはっきりと残っていた。

7章 / 全10

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