エラベノベル堂

香の包み、季はひらく

全年齢

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4章 / 全10

昼の熱が障子のすき間に薄く滲むころ、和真は帳場の小机に試作品の包みを並べ、いつもの顔ぶれを待っていた。常連たちは茶を受け取りながらも、視線だけはそわそわと菓子へ向かう。 「今度はどんなのだい」 「香りが先にくるやつです。食感も少し変えてみました」 和真が差し出すと、年配の客が先に包みを開き、鼻先を近づけた。 「うん、悪くない。でもなあ、昔ながらの方が落ち着くよ」 すぐ隣では若い女が、指先で小さな菓子をつまんで目を輝かせる。 「私は好きです。開けた瞬間にふわっと来る感じ、夏っぽいですし」 「夏っぽい、か」 「でも甘さはもっとはっきりしてほしいかな」 意見は次々に飛び、和真は苦笑するしかなかった。懐かしい味を求める声と、新しさを歓迎する声が、同じ皿を前にまるで別の道へ分かれていく。 「結局、どっちなんだろうな」 小さく漏らすと、誰かが肩をすくめた。 「どっちもじゃないの」 「どっちも、ねえ」 和真は包み紙を直しながら、答えのないまま頷いた。香りの立ち方、歯ざわりの残り方、甘さの引き際。ひとつずつは悪くないのに、誰の記憶にもぴたりとはまらない。 そのとき、帳場の端に静かな気配が差した。京子が、いつのまにか座っている。手を伸ばし、残っていた試作品の包みをそっと受け取った。 「おばあちゃん、これも感想、聞かせて」 和真がそう言うと、京子は微笑んで、すぐには口を開かなかった。ただ包みをほどき、指先で香りを確かめるように鼻先へ寄せる。ほんの少しだけ目を閉じて、それから庭へ視線を流した。 夏の木陰は、縁側の向こうで静かに揺れている。京子はそこを見つめたまま、何かを手繰るように息をついた。 「……この匂い、どこかで」 呟きは風よりも細かった。和真は思わず身を乗り出す。 「わかる?」 京子はすぐに答えず、包みを掌にのせたまま庭の木を見上げる。葉の影が、白い光の上でゆっくり揺れている。 「昔ね、暑い日に、こういう木陰で食べたことがあった気がするの。まだ言葉にならないけれど、懐かしいわ」 和真は喉の奥が熱くなるのを感じた。はっきりした感想ではない。それでも、他の誰よりも先に、京子は何かを呼び起こしかけている。 帳場のざわめきが遠のき、和真はその横顔を見つめた。試作品の包みを手にしたまま、祖母はただ庭の木陰を見つめ続けている。

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