薄い光が格子を抜けて、教室の机に細い筋を落としていた。まだ潮の冷たさが残る空気の中、俺たちは自然と肩をこわばらせて座っていた。昨夜までの読み合わせが、そのまま胸の内で湿った重みになっている。 「今日から方針を変えます」 教官の声は、いつも通り平坦だった。それでも、教室の空気は一瞬で張りつめた。 「テーマは贖罪ではありません。真相です。これからは事件当夜の出来事を、時系列で書いてください」 誰かが机の下で息を呑む音がした。 「真相って、急に言われてもな」 「順番に書けってことか」 「順番なら、なおさら無理があるだろ」 教官は黒い手帳を閉じたまま、俺たちを見渡した。 「無理があるなら、そこが重要です。食い違いを隠さずに書いてください」 その言葉で、全員の視線が紙へ落ちた。俺もペンを取り、保管室で見た空白の記録を思い出す。欠けた時刻、抜け落ちた行き先、妙に整った前後の文章。あれを埋めるように書けと言われているのだと、すぐにわかった。 最初に書いた男が、紙を押さえたまま低く言う。 「俺は最初から、あの声を聞いたんだ。柵じゃない。壊れた音より先に、人の声がした」 「違う」 別の受刑者が即座に返す。 「お前が見たのは声じゃない。倒れてた影だ。順番を都合よく変えるな」 「変えてない。お前こそ、俺の言葉を削っただろ」 会話がぶつかるたび、机の上の文字が少しずつ別の顔を見せる。俺の隣では、さっきまで黙っていた男が、震える指で書き出していた。 「俺が悪いことにしていいなら、そう書く。でも、それで全部終わるなら苦労しない」 その一文に、誰もすぐには笑わなかった。罪を認めたようでいて、どこか言い逃れの匂いがする。罪悪感と自己保身が、同じインクで混ざっていくのがわかる。 「終わらせたいのか」 誰かが問い返すと、男は唇を噛んだ。 「終わらせたいんじゃない。俺だけが悪いって話にしたいだけだ」 「それ、同じじゃないだろ」 「同じにしてくれた方が楽なんだよ」 教室が静まった。楽になるために書く言葉と、逃げ切るために書く言葉が、紙の上で露骨に分かれている。 俺は自分の欄に向き直り、思い出せる順に書こうとした。だが、書き出した瞬間に別の記憶が割り込んでくる。誰かの背中、誰かのためらい、誰かが口を閉ざした一拍。どれを先に置くかで、事件の顔が変わる。 「教官」 俺が呼ぶと、彼は短く視線だけを寄こした。 「この順番、本当に一つにまとまるんですか」 「まとまるかどうかではありません」 教官は淡々と言った。 「あなたたちが、何を守ろうとしているかを書くんです」 その一言で、また誰かのペン先が止まる。守ろうとしているもの。誰かの名か、体面か、それとも自分の中に残る最後の言い訳か。 ページの上では、事件当夜の時間が少しずつ並び始めていた。だが並ぶたびに、別の誰かの記述がそれを押し返す。教室の中には、まだ言葉にできない真相の輪郭だけが、冷えた空気のように漂っていた。
孤島綴り、沈黙の継ぎ目
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