エラベノベル堂

ひかり荘、応答の余白

全年齢

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7章 / 全10

中庭に出たとたん、夕方の風がひやりと頬をなでた。植え込みの葉はまだ明るいのに、足元の影はもう少し長い。麻衣はそこで、空気の硬さにすぐ気づいた。修理中の植木鉢がベンチの脇に半端な位置で置かれ、その横にある共用ベンチの脚には、誰かが勝手に触ったらしい擦れ跡が残っている。 「これ、ここに置いたのは誰だよ」 低い声が響いた。人間の住民が腕を組み、植木鉢を見下ろしている。対して、少し離れた場所ではロボットの住民が静かに立っていた。 「通路を塞いでいたので、端へ寄せました」 「寄せた、じゃなくて動かした、だろ」 言葉がすれ違った瞬間、麻衣は二人の間に入った。 「少し待ってください。まず、何が困ったのかを順番に聞きます」 人間の住民は舌打ちしかけてやめ、ロボットの住民は沈黙したまま視線を落とした。麻衣は植木鉢、ベンチ、通路の幅を見比べる。壊れた物そのものより、誰かが勝手に決めたと感じたことが、気持ちをざらつかせているのだ。 「鉢が邪魔だった、というより、相談なしに動かされたのが嫌だったんですね」 人間の住民が眉をひそめる。 「……まあ、そうだ」 「こちらは、誰も怪我をしない位置に置きたかっただけです」 ロボットの住民の声は平坦だったが、少しだけ遅れて、言葉の端に迷いが混じる。 「けれど、勝手に触れたように見えたのなら、申し訳ありません」 麻衣はうなずき、二人の言い分を台帳に並べて書いた。物の位置ではなく、そこに残った感情の擦れを先に残す。すると、沈黙の奥で、別の気配が動いた。 植木鉢のそばに置かれた小さな苗が、風で倒れかけたのだ。 「あっ」 誰かが声を上げるより早く、人間の住民とロボットの住民が、ほとんど同時に手を伸ばした。言葉はない。けれど、片方が鉢を支え、もう片方が苗の支柱をまっすぐ押し戻す。その動きは、さっきまでの険しさを忘れたみたいに自然だった。 二人の指先が、ほんの一瞬だけ触れ合う。 「……危なかったですね」 ロボットの住民が言う。 「だな」 人間の住民は短く返したあと、気まずそうに鼻を鳴らした。 麻衣はその様子を見て、胸の奥が少しだけほどけるのを感じた。対立は消えていない。けれど、その真ん中に、守ろうとする動きがまだ残っている。 台帳の余白に、彼女は小さく書く。 修理中の植木鉢とベンチをめぐって言い合いになった。壊れた物より先に、相談されなかったことへの傷があった。だが、同じ苗が倒れかけたとき、人間とロボットは無言で手を伸ばした。 麻衣はペンを止め、中庭の苗を見た。夕風の中で、葉の先がかすかに揺れている。

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